「ラボ言語教育総合研究所報」

ラボ言語教育総合研究所は,2006年12月にラボ教育プログラムに関心をもつ各界の専門家,研究者により設立されました。研究員が互いの専門領域を超えて,ラボ教育活動に関心をもち,評価しているのは主に次の5点です。

  1. ①ことばを人間形成の核であり,文化そのものであるという考えのもとに,英語をはじめとする外国語教育を全人的教育の観点にたつ教育としてとらえていること。
  2. ②「ことばは人間の心の表現である」という原点をたいせつにし,外国語教育においてもその考え方にそった方法と環境づくりを模索し,子どもが生き生きとことばに出会う活動をしていること。
  3. ③教育プログラムのほとんどを年齢幅のあるグループによる異年齢集団で展開し,多様性を尊重し,それを生かした学びを実践していること。
  4. ④国の内外で,子ども・青少年による多種多様な交流プログラムを行ない,心とことばの発達に大きな影響を与えていること。
  5. ⑤これらの活動を担う教育者であるラボ・テューターが,「子どもどうしの対話による学びあい」をたいせつに,個々の子どもの無限の可能性を引き出すようにつとめていること。

 ラボ言語教育総合研究所は,以上のような特長をもつラボ言語教育活動の教育成果と活動内容を,研究員がそれぞれの専門分野の視点から調査,分析評価し,具体的な研究をすすめるとともに,今後の言語教育の進展に向けての提言を行なっていきます。
 この間,2013年3月に「ラボ言語教育総合研究所報 ことばに翼を」Vol.1を,2016年6月に同Vol.2を発刊しました。2019年4月発刊の「ラボ言語教育総合研究所報 ことばに翼を」Vol.3からは,本ウェブサイトで公開いたします。

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Vol.5活動研究論文リスト

  • 和田 稔【英語教育学 明海大学名誉教授】

    和田 稔【英語教育学 明海大学名誉教授】

    和田 稔【英語教育学 明海大学名誉教授】

    「「英語と日本語との違いに気付く」ことをめぐってのいくつかの考察」

     平成29年に小学校学習指導要領が改訂・告示され,5・6年生で外国語(英語)が教科となり,平成32年度から全面実施されている。新学習指導要領の小学校の外国語の教科目標に,外国語(英語)学習において「日本語と外国語(英語)の違いに気付くこと」が設定されている。「気付き」という目標が小学校における外国語(英語)の学習の目標として設定されたのは初めてであり注目される。
    小学校3・4年の外国語活動の目標の一つは「日本語と外国語との音声の違い等に気付く」こと,小学校5・6年の外国語の目標の一つは「音声や文字,語彙,表現,文構造,言語の働きなどについて,日本語と外国語の違いに気付き,それらの知識を理解するとともに,… 実際のコミュニケーションにおいて活用できる基礎的な技能を身に付けるようにする」ことである。
    このように,小学校の外国語活動と外国語の目標に「日本語と外国語(英語)の違いに気付くこと」が学習指導要領に新たに明記されたことは注目すべきことである。「気付き」は近年盛んな言語習得研究で使われている重要な概念であるが,日本の学校英語教育の目標は「日本語と外国語の違いに気付くこと」と限定的に使っている。一般的には,「気付き」は学習者が表出する英語の表現と対象言語の正しい英語との違いに気付き,学習者が正しい言語知識を身に付ける,というほどの意味で使われる。
    一方,ラボ・パーティの言語教育理念はラボ・ライブラリーを家庭で聴き,パーティで仲間と話し合いながらテーマ活動として発表し,このプロセスで母語(日本語)と外国語(英語)のコミュニケーション能力を身に付けるというものである。このようなプロセスを「気付き」という観点から注目すべきことはラボ・ライブラリーのテクストが「英語と日本語」で構成されていることである。英語の物語とその対訳で構成されていることににより,子どもたちはテーマ活動を作り上げていく過程で,必然的に,「英語と日本語の違い」に気付くことになることである。この結果,小学校における新しい英語教育の目標とラボ・パーティの言語教育理念と接点が近くなったと言えるとだろう。
    本稿では,「気付き」という言語習得研究の重要な概念を軸にして,学校英語教育とラボ・パ ーティの言語習得理論に関連した課題をいくつかの角度から検討してみたい。

  • 福田 三津夫【演劇教育 白梅学園大学】

    福田 三津夫【演劇教育 白梅学園大学】

    福田 三津夫【演劇教育 白梅学園大学】

    「テーマ活動づくりの方法論を求めて(その3)」

     ラボ・パーティのテーマ活動は地域における優れた演劇教育の典型であり,「限界芸術」(鶴見俊輔)の一つであるという視点に立って,生き生きとしたテーマ活動を展開している宇津木一実テューターのインタビューからその方法論を探ってみた。