今日の一冊 星野博美『銭湯の女神』文藝春秋2001年12月
1524円 (文庫でも出ています)
少し若い世代の人の感性にふれたくて読んでみた本です
今の日本の日常にある身近なことから
おかしみや異常さに気がついてゆく
視点と思考の柔軟さ、飾らない素直さ、自分への正直さが面白かったです
星野博美さんは1966年生まれのカメラマン
橋口譲二氏のアシスタントを経て94年独立
97年香港の中国への返還をはさむ2年間を香港に暮らし、その体験を
『転がる香港に苔は生えない』として上梓(じょうし)
大宅壮一ノンフィクション賞を受けています
この本は受賞後の東京での生活で感じたことをまとめたもので
アパート、ファミリーレストラン、銭湯という三角形の中でいろいろなことに出会う
香港で会った人々とは何かが違う、東京で生活する人々の言動から
筆者は人々の「鈍感さ」「人への想像力のなさ」を強く感じてはじめる。
「銭湯で体を洗う人々を眺めていると『自分らしく生きる』とか
『私らしさ』という言葉に笑ってしまいたくなる。
人間は生きているだけでどうしようもなく個性的だ。」
写真について、写真家でありながら次のように書く
「無意識のうちに記憶を選択することで、私たちはかろうじて正気を保っている。
しかし写真は、人間の記憶のように都合よくは行かない。
写真は、そこに確かに自分がそこにいたという証拠を突きつける。
それが二度と存在しない一瞬であることを、写真を通していちいち宣告されるのだ。
もう会えない人、すでに存在しない場所、二度と戻らない瞬間ーーー
自分で撮った写真を見るとき、その画面を切り取ったという喜びよりも、
また忘れられない一瞬を自分の手で切り取ってしまったという悲しみを感じることの方が、私には多い。」
「写真を撮るという行為には、いつも悲しみがつきまとう。」
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