ハンス・ペーター・リヒター(1925-1993)1967
岩波少年文庫3136 1995年刊行
17歳で入隊してから20歳で敗戦を迎えるまで,
筆者がドイツの若い士官として実際に体験した,
第2次大戦の生々しいエピソードが書きつづられている
『あのころはフリードリヒがいた』『ぼくたちもそこにいた』
に続いて書かれた作品。
作者はこの作品を小説仕立てにすることができなかった。
*印で各章が区切られているだけでエピソードがドイツの敗戦まで綴られてゆく。
それだけ生々しい記憶の中で書かれたのであろう。
悲惨な現実や愚劣な軍隊組織の中で少年の信じたドイツの大義は崩れ去り、
自分自身も負傷し、片腕を失いながらも、将校として現実に飲み込まれ,敗戦の中で堕落してゆく。
本人の悩みには筆が向かわず、淡々と日常の悲惨な出来事が語られる。
こうしか生きられなかった。しかしこれは書き残さなければならない
という筆者の意志がこの書を書かせたのだと思う。
筆者はこの本を最後に筆を折ったと聞く。痛ましい書である。
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