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美しきものの寡黙な語りにふれる |
01月07日 (木) |
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地方、といっても近県に限られますが、温泉めぐりを兼ねた美術館めぐりを
ここ3、4年つづけている。名画を、列に並んで観る、ひとの頭ごしに観る、
というのが好きでない、というだけの理由で、気持ちは地方の美術館へ向く。
好きなものを好きなだけ時間をかけて観る充実したひととき。
しかし、地方の美術館の場合、アタリ! というケースがそうあるわけではない。
ちょっとがっかりさせられるケースが半分くらい。
下調べもなく行き当たりばったりで行くため、
作品の入れ替え中のため休館だったり、
建物の増改築中だったりして門前払いを食わされることも。
経営という点ではどこも赤字で、行政などの運営サイドからはお荷物なのだろうが、
ひとりでも多くの人に美しいもの、ゆたかなものにふれてもらいたいと、
それぞれに個性的なアイディアで競われていて、
アタリ! にぶつかると、日々の些事を忘れ、ほんとうにうれしくなる。
ここ2、3か月のなかで意想外に印象のよかったところを絞って挙げるとすると、
下諏訪のハーモ美術館、静岡市の静岡県立美術館がある。
ダリのオブジェ「時のプロフィール」にいきなり迎えられるハーモ美術館。
まさにいきなり飛び込む美的な幻想空間である。
諏訪湖の湖水の反射光が天井に縞をなして揺れ、自然光にあふれて明るい。
アンリ・ルソーとグランマ・モーゼスの作品を蒐集するところとして
知る人ぞ知る、小じんまりとした美術館。
ほかにも、ミロやマチスが、シャガールやミレーが、ビュッフェの作品が。
ルイ・ヴィヴァン、カミーユ・ボンボワ、アンドレ・ポーシャンといった、
これまでほとんど馴染みのなかった画家たちの、なかなかいいものがあり、
センスのよい収集力に感心する。
諏訪の地で産業用ロボットをつくる会社を創設して財をなした
濱富夫という人による開館とか。四半世紀を経た、個性的な美術館である。
さて、静岡県立美術館。日本平の北麓の、緑あふれる、自然ゆたかな空間。
文教地区でもあり、きれいに整って、まこと静かである。
その日、まったく予備知識もなく飛び込み、
「ウィーン美術史美術館展―風景画の誕生」という企画展に出会った。
“風景を旅する…巡る季節の物語”とうたわれ、
オーストリアのハプスブルグ家秘蔵の収集作品の展示。
華麗なるコレクション、といいたいところですが、ちょっと違う。
みなさんもよくご存知のピーテル・ブリューゲル。
16世紀ネーデルランドを代表するフランドルの画家ですね。
展示されているのはほとんど、いわば、あんな調子のもの。
「農民の踊り」「農民の婚宴」「雪中の狩人」「子どもの遊戯」など、
農民や下層庶民の生活を克明に描いたり、
「バベルの塔」「死の勝利」「イカロスの墜落」「怠け者の天国」といった
寓意と皮肉に満ちた作品を描いて、日本にもたくさんのファンをもつ画家。
わたしも大好きな画家のひとりで、胸熱く期待したのですが、
そのピーテル・ブリューゲルの作品は一点もない。
その作品か、とよく見れば、息子のヤン・ブリューゲルのものが数点。
主題も描き方もよく似ている。影響の大きさがしのばれた。
ほかに、知られた画家といえば、
幻想と怪奇な作品ばかりを描いていたヒエロニムス・ボスとかティツィアーノ。
パティニール、ファルケンボルク、カナレットといった巨匠たちの名画にも
今回はじめて触れた。
いえいえ、お伝えしなければならないのは、それらの作品ではなく、
これにすぐ隣接しているロダン館。びっくらポン! である。
ドーム型建築の、ゆ~たりとしたスペース。自然光がうまく活かされている。
上野の西洋美術館でも見る、おなじみの「考える人」や「地獄の門」などの
黒々としたブロンズ像が、その光のなかに生き生きと、みごとに引き立って見える。
もう、説明は無用ですね。写真で見ていただきましょう。
ここは、フラッシュ使用は禁止だが、撮影は可。
※写真はいずれも静岡県立美術館のもの
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