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「青」の世界にうずもれて |
05月21日 (木) |
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「青」の世界にうずもれて
「青」といったら、あなたは何を想い浮かべるでしょうか。
海の青、空の青…。ノーベル物理学賞の受賞に導いた青色発光ダイオード。
悲しみと苦悩の色としてのピカソの青の時代。
そうなんです、絵画の表現において「青」がどれほど肝心なものだったか、
その魅力を浮世絵の名品を手がかりに探求する展覧会が
三島市の佐野美術館で開かれています。
ちょっとユニークな視点からのアプローチですね。
誰もがよく知る葛飾北斎の傑作「富嶽三十六景 神奈川沖裏」、
独特の波、揉まれる小舟、その向こうに富士山。印象的です。
40版、50版も刷りを重ねて出す、恐ろしいほどにダイナミックに生動する波の青さ。
一度見たら忘れられない形と「青」ですね。
あれは、ベルリンブルーといって、ドイツで生まれた合成顔料によるものだそうです。
18世紀後半になって日本に入ってきて、
北斎と、それ以降の伊藤若冲とか平賀源内らによって生かされ、広がったといいます。
それ以前の青は、墨摺絵に始まり、鈴木春信の美人画などに見られる露草青、
写楽の役者絵に使われた藍でした。
これらはいずれも植物性の染料で、すぐに色が褪せたり、水に滲みやすかったりで
絵師泣かせ、なかなか使いにくかったようです。
その点、別名「ベロ」とも呼ばれるベルリンブルーは、鮮明な色を保つだけでなく、
その濃淡で遠近感、立体感を効果的に表現でき、
浮世絵の隆盛をもたらしたということらしい。
並べて見ても、北斎の「青」は絵をだんぜん際立たせていますね。
「青」を契機に色彩表現の足跡をたどったあとは、緑したたる箱根路へ。
そしてそこで出会ったのが、ふたたび「青」。
小涌谷の岡田美術館で目にした陶磁器、景徳鎮の名品たち。
じつに印象深い「青」で、この方面にはまったく疎いわたしでさえ、
目をそらすこともならない感動を覚えました。
ほかにもこの広い2階の展示室には中国の古代、清朝や
朝鮮の高麗、李朝の逸品もたくさん見られました。
この美術館を訪れるのは、多くの場合、これではなく、
最近奇跡的に発見されて話題の喜多川歌麿の「深川の雪」を見たいとする人たち。
この幻の大傑作のおかれた3階展示場の画面の前には珍しくたくさんの人だかりが。
料理茶屋に集う女性たちの雅やかな姿をとらえた歌麿の晩年の作。
これについて書きはじめると長くなるので…。
さて、「青」を極めるといえば、これ、でしょう!
箱根湿生花園では、「青いケシ展」を開催中。
神秘的な幻の花、青いケシ(ブルーポピー)1,000株を集めての圧倒的な展示。
もう、見事! というしかない「青」の美しさ。
気高い天上の妖精はヒマラヤの透き通った風に磨かれてひっそりと咲き、
どんなことばでもとどかない、美しい「青」を見せてくれます。
青に始まって青に終わった小さな旅。
緑の濃淡の織り成す箱根の、英気みなぎる季節。
箱根山、大涌谷の噴火は、まるでよそごとのようで、
ただ色彩に酔い、季節に酔い、湯の香りに酔い…。
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