✦だれでも、はじめは子どもだった |
02月20日 (水) |
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――心で見なくちゃ、ものごとはよく見えない。
――かんじんなことは、いつだって目に見えないんだ。
もう6~7年も前になるだろうか、中学校の教室の数か所で
そんなことを生徒たちに語ったことを憶えている。
ご存知、「星の王子さま」から借りたメッセージである。
この作品を素材にした読書トークの機会を何度か与えられた。
サン=テグジュペリの研究家でもないわたしが、
中学生を対象とする読書指導の場や地域の読書会で
これを語るのは、ちょっとばかしヘンテコだったろう。

王子さまの小さな星B612 気ぐらいの高いバラ一輪も
わたしが大学生活を送った時代は、フランス実存主義文学が
もっとも盛んに読まれた時代で、サルトル、カミュ、カフカ、
ボーヴォワール、メルロ・ポンティ……、なかんづく
行動派実存主義の旗手としてのアンドレ・マルローや
サン=テグジュペリはずいぶんよく読んだ。
「南方郵便機」「夜間飛行」「人間の土地」「戦う操縦士」「城砦」…。
古書店で手に入るものはだいたい読んだように思う。
ところが「星の王子さま」に出会ったのは、それよりずっとずう~っとあと、
40歳代の半ば近くになってからだったかも知れない。
子どもの読み物としては難解だし、かといって、これはおとなの読み物?
しかし、言うに言えない高雅な香りのようなものがある。
以来、何度となくこれを読んでは、その都度、頭のなかをくしゃくしゃにした。
ほんとうのところ、多くのひとに語るほどには
この作品を理解しているわけではないのである。
ほんとうのものは、心で見なけりゃわからない――、
その暗喩のなかにわたし自身がいた。
もちろん、わたしは作者のサン=テグジュペリに会ったことはない、
飛行機を操縦した経験もない、不時着したアルジェリアの砂漠も知らない。
箱根にできたという「星の王子さまミュージアム」にさえ
行ったことがない。そんな客寄せの卑俗なものを見たら、
わたしのなかの「星の王子さま」のイメージが損なわれるような気さえして。
六つの星めぐりより、王様の星。虚栄心、権力欲、名誉欲のかたまり。
実業屋。金持ちになることのみに腐心し想像力を持たないおとな。

点燈夫。忠実に仕事に打ち込むが、自分の発想力はない。
で、この2月中旬、機会があってその「星の王子さまミュージアム」に
行ってきたのである。別段、新しい発見があったわけではないが、
箱根特有のあの風の流れるなかでの、久々の王子との再会。
そう、おとなは、だれでも、はじめは子どもだった。
しかし、そのことを忘れずにいるおとなは、いくらもいない。
作品の冒頭にこう書かれているように、老いを忘れ、はじめの子どもになって
ひとときの再会を楽しんだ。
子どもの心でまわりを見ると、ヘンテコリンなおとなたちの猖獗が
目路いっぱいに広がる。
実力もないくせに威張り散らし権力を振り回すおとな。
お金儲けに翻弄され他のことは見えないおとな。
自分に対する褒めことばしか耳に入れようとしないおとな。
チクリ、チクリとわが身を刺す、「かんじんな」言葉を懐かしみながら、
ゆっくり、こころをしずめてものごとを見る、ものごとを考える、
つい忘れがちなそんなことを思い出したひととき。
ヘビに咬まれ、残してきた“バラ”のもと、自分の星へ帰る、この地球には何も残さず。
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Re:✦だれでも、はじめは子どもだった(02月20日)
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かせだまさん (2013年02月28日 20時12分)
きょうは あたたかかったですね。
「星の王子さま」。。。
がのさんが 「星の王子さま」をどんなふうに
つど味わっていらっしゃったのか
私は、気になりなって
何度読んでも 霧のようにきえる まぼろしみたいな
空耳みたいな 綿菓子みたいな作品なのです。
不思議な本です。
忰田Pフランス語部員としては、フランスの思想家も
勉強したいところです。
ありがとうございます。
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Re:Re:だれでも、はじめは子どもだった(02月20日)
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がのさん (2013年03月01日 21時52分)
かせだまさん
「星の王子さま」。。。
まぼろしみたいな、空耳みたいな 綿菓子みたいな作品なのです。
不思議な本です。
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これまでずいぶん多くの人びと、幼い子から高齢者までにわたり「星
の王子さま」を読み合い、論じあってきましたけれど、「空耳みたい」
「綿菓子みたい」とこの作品を評したひとを、わたしはこれまで知りま
せんでした。おもしろいですね。
飛行機に乗ったときとか高速エレベーターに乗ったときなどに感じ
る、気圧の変化によって耳の奥に生じる、あのキーーンとくる眩暈の感
覚。
ふわふわして噛みごたえなく、あいまいで、それでいて何やら甘やか
なロマンも…。
ユニークな感度をお持ちのかせだまさんらしい捉え方、フィーリング
でしょうか。
これまで、いつでも手探り状態ながら、この作品を語るときは、幼い
子にはそれらしく、中高年者にはまたそれらしく、学術研究者が対象の
ときはまたそれらしく、それぞれテーマを据えて鑑賞してきました。ど
こからでも話題にできる奥深さをもった作品、といえるように思いま
す。
「星の王子さま」、また作者サン=テグジュペリについて、バラと作
者の妻コンスエロ・スンシンさんの関係について、あるところに小論文
を書いたことがあります。当時、意外に大きな反響をもらったのです
が、もし、ちょっとそれ読んでみたい、ということでしたら、一部をコ
ピーして郵送してもいいですが…。
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Re:Re:Re:だれでも、はじめは子どもだった(02月20日)
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かせだまさん (2013年03月05日 18時32分)
がのさん
今すぐよみたし
取りに行きたいくらいです!!
お忙しそうですが、お願いします。(メッセージを送るに住所など入れ
ます)
かせだま以外の皆さんも
お読みになりたいはずですっ!!
ありがとうございます!
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