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特集連載
第6回
子育ては絵本とともに(その2)

2011/4/15

ラボ・パーティの子育て応援小冊子

 子育て中のお母さん、お父さん、家族にとって、子どもの成長はかけがえのない喜びです。けれども、その道のりは迷いや悩みの連続であるでしょう。「子どもにとって本当にたいせつなことは何だろう」と思うとき、この冊子がみなさんの考えを深める手がかりとなることを願って刊行いたしました。
 現代の社会では、さまざまな視聴覚をとおしての刺激が子どものまわりに氾濫しています。その代表格、テレビが子どもの発達へ与える影響については、これまで心理学者などによって指摘されてきました。
 絵本の魅力は、その話や絵の内容はさることながら、「読んでくれる人」との人間的交流にあります。大好きな人に絵本を読んでもらい、その内容について話をすることは、子どもにとってもおとなにとっても至福のときとなるでしょう。
 今回は絵本と子どもを研究されている佐々木宏子先生に、2冊の絵本を例にして、絵本作家が絵本にこめる思いについてうかがいました。さぁ、お子さんといっしょに絵本をひらきましょう。絵本タイムのはじまりです。

『ちいさいおうち』が教えてくれること

 さて、みなさんが住んでいる街は、『ちいさいおうち』の何ページあたりのところでしょうか。ちなみに、私の住んでいるところはだいたい14ページと15ページの見開きあたりです。人の暮らしやライフスタイルは、ページが進むごとにまったく異なったものになります。私は、できればちいさいおうちと同じように、1ページ目(そして最後の39ページあたり)の場所に住みたいと思います。
 この絵本は、自然や人間がともに生きてゆくことや、人間が自然にかこまれて暮らすことが、どんなにおだやかで心おちつくものかを教えてくれます。経済や技術の発達の恵みを受けている現在でも、多くの読者がこの絵本にひかれるのは、そこに人間の暮らしにとって、もっともたいせつな真理のひとつが描かれているからではないでしょうか。

あなたのたいせつな人はだれですか?

おじいさんのたいせつな家族

「ペニーさん」作・絵 マリー・ホールエッツ。松本享子訳  もう1冊は、やはり手ばなせないものをもつ、貧乏なおじいさんのお話です。52ページもある、しかも文字が多く、絵はモノクロのみの絵本です。マリー・ホール・エッツ(※注4)が、1935年にはじめて作った絵本、『ペニーさん』(松岡享子訳/徳間書店)です。ペニーさんは、いまにもこわれそうな小屋(家ではありません)に住む、とても貧乏なおじいさんです。絵を見るとずんぐりむっくりの体格なうえ、頭はみごとにツルツルで人のよさそうなまん丸な顔をしています。
 「たしかに、家族がおおぜいいると、びんぼうからぬけられんもんだ」、「さりとて、家族なしに、どうやってやっていけよう?」(P.4)と、おじいさんはひとりごとをいいます。そんなにたいせつな家族とは、いったいどのような人びとなのでしょうか。
 読みはじめると、おおぜいの家族とは7ひきの一風変わったくせや性格をもつ動物たちであることがわかります。ひどいめんどうくさがりやのウシ、食べているときは鼻をならし、眠っているときはいびきをかくブタ、大またでえらそうにあるくオンドリなど、みなさんのまわりにも似たような人はいませんか?どのような性格やくせのもちぬしであろうと、おじいさんにとってはふたりとしていないたいせつな家族なのです。おたがいの存在を認めあい、いっしょに暮らすことが家族というものなのです。おじいさんは、毎日、町の工場に働きにいきますが、お給料はそれら家族の食べものを買うと全部なくなってしまいます。おじいさんは工場で働くことはつらいけれど、でも「ありがたいことだ。でなければ、大家族をやしなうことはできんもんな」(P.8)と、思っています。

※ 注4 マリー・ホール・エッツ:1895年〜1984年。アメリカ生まれ。人間と自然との共存への思いを描いた作品を多数残した。『クリスマスまであと九日―セシのポサダの日』でコールデコット賞を受賞。ほかに『もりのなか』『きこえるきこえる』『わたしとあそんで』がある。

危機に立ちむかう家族

 ある日、この7ひきの動物たちは、おとなりさんの畑に勝手に入りこみ、イチゴ、キャベツ、レタス、カボチャ、リンゴなどを「食べて食べて、もうたくさんというまで食べ」(P.14)てしまいました。さぁ、そのあとがたいへんです。みんなのお腹は痛くなるし、おとなりさんはおじいさんのところにどなりこんでくるし……。そして、「けものたちをわしによこすか、それとも仕事をするか」(P.28)とせまり、おじいさんに畑をたがやしたり石ころや雑草をぬいたり、夏のあいだずっと毎日牛乳を届けたりすることなど、きびしい要求をします。
 このような家族の危機に、動物たちはおじいさんにないしょで、畑をたがやしたり石ころや雑草をとりのぞいたりして、夜どおし働きつづけます。なにも知らないおじいさんは、仕事が夜のあいだにどんどんはかどってゆくのを見て、「きっと魔法使いか、子鬼か、妖精か」(P.40)そんなものがいるにちがいないと思います。なまけ者で自分勝手なふるまいをしていた動物たちが、魔法使いや子鬼、それに妖精のようなふしぎな力を身につけてゆくのです。おじいさんと動物たちはおとなりさんへのつぐないをしたあとも、みんなで家をつくり花を植えたりして仲よく暮らし、村じゅうでいちばんしあわせな家族となります。

ゆずれないものななんですか?

 どんなにお金をつまれてもゆずれないもの(こと)や、親しい友だちや家族を持っている人こそが、ほんものの暮らしをしていることを、作者は私たちに語りかけています。
 さて、みなさんにとってのゆずれないものとはなんでしょうか?今回紹介した2冊の絵本を読みながら、そのことについてお子さまやご家族の方といっしょに考えていただければうれしいです。

おわりに

 子どもと絵本のかかわりを見つめて約40年。長い間子どもと絵本について考えてきた結果、すべての子どもに共通する普遍的な「よい絵本」があるとは思えなくなってきました。絵本と子どもとの出会いは、基本的にはとても個人的なものであり、一冊の絵本がその子の心と深く共鳴するとき、その子にとってその一冊は「よい絵本」となるのではないでしょうか。絵本のリストブックも、いまや年齢別ではなく、テーマや主題別の時代に入りつつあります。
 さて、子どもと絵本を楽しむときに、もっともたいせつなことは何でしょうか。子どもにとって絵本を読み聞かせてもらうということは、話の筋や絵が語ることへの興味もさることながら、信頼するお母さん、お父さんといっしょに一冊の絵本を読みあうという単なる事実がうれしいということです。信頼できる人の口から流れる音声(ことば)のひびきは、子どものイメージを強く刺激し、ことばの意味をより一層豊かなものへと高めると思われます。
 ぜひ、お子さまと絵本の世界をともに楽しむ豊かな時間を過ごしてください。



おはなしをうかがった方
佐々木宏子先生
佐々木宏子先生(ささき・ひろこ)
京都府出身。同志社大学卒業。博士(教育学)。絵本の主題分析にもとづく「絵本心理学」を構築。
著書に『新版 絵本と子どものこころ』(JULA出版局)、『絵本は赤ちゃんから』、『絵本の心理学』(ともに新曜社)ほか多数。
鳴門教育大学教授、北京師範大学珠海分校教育学院教授、環太平洋大学次世代教育学部乳幼児教育学科長、を歴任。現在、鳴門教育大学名誉教授、同大学社会連携課非常勤研究員。前絵本学会会長。日本学術会議連携会員。
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