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特集連載
第50回
できないことをやらせるよりも,
できることを増やすことをだいじにしたい

2015/8/07

丸山 能通/まるやま よしみち

 丸山 能通/まるやま よしみち
 自然体験インストラクター

 今月ご登場いただいたのは,ラボくろひめサマーキャンプの野外活動コースにも対応してくださっている,ペンション「ことりの樹」の丸山能通さんです。ご自身の海外体験,自然とのふれあいの体験をもとに,キャンプで子どもたちに熱い思いで接してくださっています。

まず,ニュージーランドに行かれた経緯と,どんなことをされていたか教えてください。

 高校卒業後の進路を考えるとき,英語力を身に付けたいとの思いで海外に行くことにしました。ニュージーランドの専門学校の入学試験を受けると紙のテストはよく出来たんです。いちばん上のクラスに入れるほどだったんですが,実際にそのクラスに入るとすぐに英語のコミュニケイションが出来ないという理由で,今度はいちばん下のクラスに入れられました。受験の英語の知識と英語を使ってのコミュニケイションはまったく別だ,とよくわかりました。
 2年後,専門課程には進まずクライストチャーチにあるお土産店で働きました。事業の拡大とともに新しく支店を出すクイーンズタウンに移り住み,ツアーガイド・趣味である自然体験や釣りなどを生かしてのトレッキングやフィッシングガイドなどを行いながら約12年ニュージーランドで生活しました。ちょうど日本からニュージーランドを訪れる人が増えている時期で,日本語の話せる人材は重宝されて,新しいツアーや企画の8割ぐらいには関わったんじゃないかと思います。ニュージーランドの永住権も取得しました。
 その後日本に帰国し,ニュージーランドで培った経験を活かして長野県黒姫高原でペンション営業の傍ら,自然体験活動やフィッシングガイド等も行っています。ラボ・キャンプでは2日目の野外活動で 「ダンパつくりコース」のインストラクターをしています。

長野県くろひめでペンションを経営されるきっかけ,というようなことはあったのでしょうか?

 実は帰国後,しばらく東京で生活していましたが,ニュージーランドの自由な生活が忘れられず国内でニュージーランドに似た生活環境を探していたところ,偶然黒姫を見つけ一目ぼれして移住を決めました。ニュージーランドで旅行業にかかわっており,またニュージーランドで出会って結婚した妻もバスガイド,添乗員等旅行業に携わっていたのでペンション経営を始めようと思ったのです。
 くろひめの魅力は,なんといっても自然です。ニュージーランドの風景とよく似ており,またそんな豊かな自然にあふれているのに町としての機能もしっかりしている。くろひめの景色を見たとき,自分の心がさわぐのを感じました。「私の居場所はここだ」と思ったんです。

自然の中での活動の魅力はどういったところでしょうか。

 一番は時間の流れです。ガイド等の仕事の場合はある程度時間の制約はありますが,それでも時間に追われることはなく,目に見えることや体が感じることを飽きるまで味わえることです。晴れの日はすがすがしく過ごせますが,雨の日でも濡れた木々や葉が緑に輝き雨音やしずくの流れを見聞きしたりすることでのんびりとした時を過ごすことができます。
 特に趣味の釣りをしているときは釣れる釣れないよりもきれいな川の流れを見て音を聞いていると心の洗濯をしているような感覚になることがあります。川の流れを,魚を探しながら移動するのですが,自然の中に体を置いていると水と土からエネルギーをもらう気がします。そうした感覚,気持ちを心行くまで堪能できることが自然の中の活動のよさですし,それは人間にとってとても重要で,必要なことだと思っています。

これからの未来を担っていくこどもたちに,「経験してほしい!」と思われることはありますか?

ラボサマーキャンプの野外活動コースの様子  土いじりを体験してもらいたいです。生命の源である水と土,特に都会では土に触れる機会があまりないと思います。都会に流れる川の河原は護岸工事がされていて遊歩道でさえ舗装されています。
 土をさわる,感触を確かめる。時には土の中にいる生き物に出会うでしょうし,土のにおいや温かみを知ることで,そのエネルギーを受け取ってほしいです。土があるから森は育つ,生き物が育つ。人間にしても,もともとは土の上で暮らすのが当たり前だったのです。都会の舗装されたアスファルトやコンクリートは,そのしたの土からのエネルギーを遮断してしまっているように思います。自分の五感で,生の土を感じてみてください。土の上を歩くだけでもエネルギーが湧いてくると思いますし,できれば花を育てたり,野菜を作ってみるなど土に触れる生活をしてもらいたいです。

キャンプでの「ダンパつくり」コースについて聞かせてください。

 パン屋さんのパンは,おいしいけれども作るのに手間隙や,器具が必要になって気軽に作れるものではありません。でも,身近にあるものだけを使って,手軽に自分の手で作れるのが「ダンパ」です。できばえや味よりも,だいじなのは「自分の手でつくった」という感覚です。「与えられたもの」でなく,自分の手で「作り上げたもの」を食べる達成感を味わってほしいですし,「難しそう」と思うことにチャレンジしてみて,思ったより簡単だということを発見して自信を付けてもらいたいです。日常の生活でもそうで,与えられるのではなく,自分で工夫して作る楽しさを味わってほしいと思います。
 TVゲームは楽しいけれど,それは与えられた楽しさ。でも,たとえば木の枝と松ぼっくりで「どんなことが出来るだろう?」と遊び方を工夫して遊ぶ楽しさを知ってほしい。
 そうした「経験」が少ないと,実は何か判断をしなければならないときに判断材料が少ないということにつながります。自分の体を使って,「経験」をしてほしいですね。
 また,「ダンパつくり」コースの中でブルーベリージャムをつくりますが,実際に木になっている実をつむところから始めます。つんだばかりのブルーベリーを口にするのに抵抗を感じる子もいます。無理強いはしないですが,友達が食べてみて「甘い」「すっぱい」というのを見たり,「おいしいよ」と声をかけられたりすることで口にする勇気が出る子もいます。仲間の力,だと思います。
 そうして食べてみた時の反応は,本来,素の反応であるべきだと思うのですが,最近は「どういう反応をするべきか」まで誰かに教わったとおりになっているような気がしています。感じたままを素直に表現してほしいと思いますし,個人の感じ方をだいじにしてほしいので「三つの木を選んで,三個つんで食べ比べてごらん。そのなかで一番おいしいと思った木から実をつもう」といっています。甘いのが好きな子もいれば,甘酸っぱいものを好む子もいますので,そこは個人の感覚をよりクリアにするために,比較して自分の好みを自覚してもらいます。どれがおいしいかを決めるのは,自分です。3つ食べ比べてみるのは,三回の「経験」があると自分で判断が出来るからです。このジャム作りに限らず,「経験」が少ないと判断が出来ません。そうすると,結局自分の代わりに判断してくれる人の言うことを聞こうとなってしまいがちです。経験をつむことで自分で判断することも増やしていってほしいと思います。

子どもたちの対応をする際に,だいじにしておられることや心がけておられることはありますか?

 できないことをやらせるのではなく,できることを増やしていくということを第一に考えています。「やったことがないからできない!」という子どもが多いのでなぜやったことがないのか?どうやったらできるのかを一緒に考えていきます。
 最近は「まずやる!」ではなく,考えて安全だとわからないとやらない子が多いので,最初にやって見せて本人が納得してできるとわかってから初めて動き出します。そうすることを積み重ねて,「やらされている」から「自分でやっている」に変わっていくと思います。その感覚を大事にしています。

最後に,ラボキャンプに来る子どもたちにメッセージをお願いいたします。

 「何をさせてもらえるんだろう?」ではなく,「何ができるんだろう?」と思って参加したほうが,楽しいし,得るものも多いと思います。積極的にキャンプに参加して心に残る経験を自分で見つけてください。 丸山さんのペンション「ことりの樹」。Tel:026-262-1718

おはなしをうかがった方
丸山 能通
丸山 能通(まるやま よしみち)
1967年東京生まれ。高校卒業後,ニュージーランドの国立専門学校に入学。その後ニュージーランドで日本人に対応する事業に幅広く携わる。ニュージーランド永住権取得。日本に帰国後,旅行業の経験を活かし長野県黒姫でペンション経営。取得している資格は,自然体験活動上級指導者NEALインストラクターほか。
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