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特集連載
第48回
絵本が人の成長を助けてくれる
――絵本・ものがたり・読み聞かせの魅力と可能性

2015/6/01

森 ゆり子/もり ゆりこ

 森 ゆり子/もり ゆりこ
 絵本で子育てすることの楽しさを,多くのお母さんやお父さんに知っていただきたいとNPO法人「絵本で子育て」センターを設立された森ゆり子さん。今回は,「絵本・ものがたり・読み聞かせ」の魅力とその可能性について書いてくださいました。
 絵本・物語は人の成長を助けてくれる,読み聞かせを通して子どもは「自分はかけがえのない存在なのだ」ということを無意識のうちに理解する,といわれます。絵本の読み聞かせは,子どもにとっても,おとなにとってもかけがえのない幸せな時間になるでしょう。

絵本で子育てすることの楽しさを多くの方に

 NPO法人「絵本で子育て」センターは,絵本で子育てすることの楽しさを子育て中のお母さんやお父さんに語ることのできる人材を育成するための「絵本講師・養成講座」を開講して今年(2015年)で12年目を迎えました。年6回のスクーリングを終え修了された方は全国で1300人を超え,各々の地域で「絵本講座」を開いています。
 1990年代初めから頻発した青少年の残酷な事件,大人になりきれない子どもの増加,子どもの貧困・格差,政治の腐敗など,物質的には豊かになったけれど心が満たされない社会に不安を覚える人も多いと思います。私たちは豊かになるためにではなく,幸せになるために生きているのではないでしょうか。人と人との関係が今ほど希薄になった時代が私たちの過去にあったでしょうか。 「絵本講師・養成講座」 「絵本講師・養成講座」で講演する筆者

絵本・物語が人の成長を助けてくれる

 人類の歴史は700万年といわれています。そして,書き言葉の文字が作られたのはその700万年と比べるとほんのちょっと前(5000年から6000年前)だそうです。それまでの気が遠くなるような長い長い年月,人類は共生を生存戦略として進化し,そのために発達してきたのがコミュニケーション能力だそうです。言葉を獲得することで意思疎通をよりいっそうはかってきたのです。
 当然のことですが,交わす言葉は決して機械音や電子音ではなく生身の人間の声でした。伝えなければならないことを仲間から仲間へ,あるいは親から子へ,また祖父母から孫へ語り続けてきたはずです。そのようにして私たち人類は進化してきたのです。人の成長も然りです。声が聞こえる方に顔を向けて,その語りかけに耳を傾けます。そして,言葉を蓄えていき自分でも話すことができるようになります。 その後,文字を覚えてたどたどしくも読めるようになり,最後にやっと自分で書くようになるのです。聞いて話して読んで書いて……。現代の子育てはその順序に混乱をきたしているように思えてなりません。人の成長の段階を本来の順序に戻す必要があると思うのですが,大人は子どもに語りかける言葉を持つことができずにいます。語って聞かせるお話を持ちません。このような時代だからこそ絵本が大きな力を発揮してくれます。絵本(物語)が人の成長を助けてくれると思うのです。

絵本の素晴らしさ,読み聞かせの可能性

絵本講師・全国交流会  絵本の素晴らしさ,読み聞かせの大切さ,その可能性を感動的に伝える本があります。身体に複数の障がいを持って生まれ,知能の遅れがあるとも診断されたクシュラ・ヨーマンという女の子の成長を,祖母が克明に綴った感動の記録,『クシュラの奇跡 140冊の絵本との日々』(ドロシー・バトラー/著,百々佑利子/訳,のら書店)です。 一日中むずかるクシュラの苦しみを少しでも和らげるために,両親がとった方法の一つが絵本の読み聞かせでした。両親は,わが子を常に抱きかかえ,時には10時間以上も読み聞かせを続けました。するとクシュラは絵本に反応し,読んでくれる人の声を真似するようになったのです。そして,3才になった頃には,知能検査で標準以上の結果が出るほどになったそうです。 本の中で著者は,《これは推測にすぎないが,たえず抱かれて話しかけられている快さと安心感によって,正常なコミュニケーションの手段を断たれた子どもを苦しめるにちがいない孤独感や恐怖が,少しはやわらげられたのではないだろうか》と語っています。また,国内でも同様のお話があります。『マリナと千冊の絵本』(原ひろこ/著,いのちのことば社フォレストブックス)という本が出版されていますのでご紹介しておきます。

子どもが,自分がまるごと受容されていると感じること

 絵本を読むことは,片手間ではできません。しっかり相手に向き合って読まなければなりません。子どもにとっては,とりもなおさず自分がまるごと受容されていると感じることのできる状態にほかなりません。まず,自分の存在がそのまま受け入れられていると実感できること,全てがそこから始まるのではないでしょうか。 クシュラも全幅の安心を覚えたからこそ,物語への旅が可能になったと思われます。相手の話すことを理解したい,そして自分の思いも伝えたい,だれでもそのように思える相手がそばにいる喜びを感じるはずです。子どもに心を向けてしっかりと読んであげて欲しいと願います。

物語を経験することで育つもの

 物語を経験するということは,今までの自分の価値観や社会の価値観を見つめなおす機会を得るということです。子どもにたくさんの物語を届けるということは,子どもの心にたくさんの宝物を届けることなのです。宝物を受け取った子どもは,世の中にはいろいろな人がいるということ,ひとつの事柄でも様々な見方があるということ,自分はかけがえのない存在なのだということを無意識のうちに理解していくでしょう。 不思議なことに,宝物は語り手の方にも戻ってきます。ものの見方に厚みが加わり,人としての感性が育まれていくのです。あっという間に過ぎてゆく時間を,絵本の読み聞かせで,ゆったりした時間に変えていって欲しいと願います。

おはなしをうかがった方
森 ゆり子
森 ゆり子(もり ゆりこ)
広島県生まれ
2004年NPO法人「絵本で子育て」センターを設立,理事長に就任。同年「絵本講師・養成講座」を開講。翌年より同講座を芦屋,東京,福岡3会場で開講。 現在は芦屋,東京2会場で開催。2015年第12期を迎える。保育園・幼稚園・小学校の保護者の皆さん,保育にかかわる方,また子育て支援センター,図書館,公民館などで「絵本」と「子育て」に関する講演(講座)活動を積極的に展開している。NHK文化センターの講師もつとめる。著書に『絵本を読んであげましょう』。日本子どもの本研究会会員。
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