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特集連載
第45回
ことばの力で,人と人のボーダーを飛びこえる

2015/3/5

井手 和佳子/いで わかこ

 井手 和佳子/いで わかこ
 啓明学園初等学校 教諭

 今月は,国際色豊かな学校で小学校の教員として英語教育に関わる井手和佳子さんです。ラボ・パーティでご自身が子どものころに体験したテーマ活動や国際交流(ホームステイ)ので感じたことをもとに,小学校の英語教育を見直し,新たな活動に取り組まれている井手さん。「ことばは人と人とのボーダーを飛びこえ,つなぐことができる」。そうした思いを子どもたちに伝え育てるために,「テーマ活動」を学校教育の場で実践されています。ことばの力を育む実践のようすを,どうぞお読みください。

国境はどこにあるの?

 「ワカコ,あなたはカナダに立ってるんだよ!」
 14歳でラボ国際交流(海外ホームステイ)に参加した私は,アメリカ・ワシントン州のホストファミリーと,広い公園に出かけました。芝生の上を走り回っていると,ホストマザーに,「ワカコ!」と声をかけられたのです。私には彼女の言っている意味が全くわかりませんでした。ふと見ると,近くに大きなゲートがあり,「この門が二度と閉ざされないように」と書かれています。「アメリカとカナダの間で悲しい過去があり,そのときは二つの国を行き来することは難しかったけれど,これからはいつも門を開いていよう」と作られた公園だということです。アメリカとカナダの国境だというのに,門は開いているし,国境のフェンスさえないのです。私は,右足でアメリカ,左足でカナダの土の上に立って,自分の世界がどこまでも広がっているような気持ちになったのを覚えています。
 生まれて初めて飛行機に乗って,私は下に広がる森林のなかに国境を探していました。地球儀では中国はオレンジ色,モンゴルは黄色になっているけれど,実際の地球には一本も線が引かれていませんでした。
 国境やボーダーは,人と人を分けるもの。それは人がつくるものであり,国境がない場所もあるんだ,ということは,14歳の私にとって大きな発見でした。

英語教育を見直す 〜ほんものの「ことばの力」を育てたい〜

学校の裏手を流れる多摩川にて全校川渡り遠足  私は,東京の私立小学校で教員をしています。校内でザリガニつりやガケ遊びができる緑豊かな学校です。創立当初より帰国生(海外在住経験者)・国際生(国内インターナショナル校出身者,外国籍の子どもなど)の受け入れをしていて,全校生徒の約3割が帰国生や外国人の保護者をもつ子どもたちです。国際生の子どもたちは,世界のいろいろな国の文化を持っていて,それぞれのことばを話してくれるので,日々刺激をもらっています。朝のあいさつをエジプトやスペインのことばで言ったり,「センイルチュッカハムニダ〜」と韓国語で誕生日の歌を歌ったり,ブラジルの子のお弁当にソーセージと小豆の煮物が入っていて,びっくりしたこともありました。

中学生の頃、アメリカでのホームステイで、4Hクラブのパレードに参加  私が14歳でホームステイした夏のこと。ホストフレンドが4H(アメリカ農務省管轄の青少年教育団体)の乗馬チームのリーダーで,私も毎日馬に乗ったり,馬の世話を手伝ったりと充実したときを過ごしました。しかし,ステイがはじまって1週間ほどはことばもうまく通じず,自分の部屋に戻ると”I’m so lonely, so lonely.”と『グルンパのようちえん』のセリフが出てきました。会話ができないつらさが,幼い頃から親しんできたラボ・ライブラリーの主人公と重なっていたのです。私は,自分のさびしさが英語になって出てきたことに驚きました。私の中に,英語があるんだと思うと力がわいてきて,メチャクチャな英語でも,ホストファミリーとコミュニケイションをとってみようと思ったのです。
 今の英語教育で,自分の気持ちを伝えること,相手の思いを受けとめることは,できているでしょうか。自分の心とかけ離れたセンテンスを繰りかえすこと。多くの単語を覚えること。これでは,ことばのスキルは学べても,ことばの本質とは程遠くなってしまいます。ことばは,その人の人となりであって,その人の気持ちや考え,行動とつながっているはずです。
 ラボのテーマ活動(劇活動)では,私たちは物語の登場人物になりきり,その人物として動き,語ります。セリフもナレーターも,ことばが自分の内側から出てくるのです。そのようなことばは,人の中に長くとどまり,その人を支えてくれるはずです。そして,心や体と結びついたことばの力は,英語だけではなく,日本語や,その他の言語の土台にもなってくれるのではないでしょうか。

小学校の英語教育にラボを

啓明学園初等学校『そらいろのたね』を英語で発表  そこで,私は小学校の英語にラボのテーマ活動を取り入れたいと考え,英語科のミーティングで時間をかけて話しました。ラボのよさは説明だけで理解してもらうことが難しいので,トライアルとしてやってみようということになりました。
 まず,対象は1,2年生。1,2学期はナーサリー・ライムを課題にしました。家で毎日CDを聞き,授業で全員が暗唱することを目指します。手遊びを楽しみ,歌の内容にちなんでゲームや本物のバター作り,工作などに広げました。廊下を歩きながら,図書室で本を選びながら,”Diddle diddle dumpling”や”Humpty Dumpty”を口ずさむ子どもたちが見られるようになりました。
 3学期は,「テーマ活動(英語と日本語の劇)」に取り組みました。『てぶくろ』『ガンピーさんのふなあそび』『だるまちゃんとかみなりちゃん』など,そのクラスに合った物語を選び,冬休みから各自,自宅でCDを聴くことを始めました。中には,冬休みだけで100回聴いたという子どももいました。ラボのパーティ活動と学校ではさまざまな環境や条件が異なるので,学校にあわせた工夫をしています。例えば,劇活動として動く前に,ことばを取りあげて学ぶ時間もとっています。場面ごとに,CD を止めながらいっしょにセリフを言う練習をします。かみなりちゃんが浮き輪を指さして”I want it! I want it!”と言う場面では,自分の好きなもの,例えばケーキ・プレゼント・100点のテスト・妖怪メダルなどのカードを描いて,”I want it!”といってみました。
 劇表現は,あまり小道具を使わずに,自分たちで表現できるようにアイディアを出しあいました。5人の子どもが1匹のトロルになるのに,だれが目玉になるか,鼻になるか相談している様子はほほえましいものです。セリフを言いながら,鼻になっている子が転がり出てしまい,みんなで大笑いしました。
 CDのことばを自分の内に蓄え,語り,物語の世界に入り込んでお話を表現する英語の授業は,子どもたちに大好評でした。「テーマ活動」にはじめて取りくむ子どもばかりでしたが,その楽しさに思う存分ひたり,発表会をもつことができました。

以下,保護者の感想から一部を紹介します。
・英語のセリフという気負いがなく自然に演じていて,子どもたちの順応力のすごさに驚きました。
・はじめは自分のセリフだけで精一杯でしたが,後半は友だちのセリフも覚えていてびっくり,嬉しく思いました。
・表現することは日本でも難しいのに,英語でみんながよく表現できていて,びっくりしました。
・家でセリフをマジックで書いて貼り,前を通るたびに練習していました。家族みんなで取り組めたのが楽しかったです。

ことばの力で,ボーダーを飛びこえる

ラボキャンプ「海の学校・高島」にて大学生キャンプリーダーをする筆者(右隅)  今,日本では,近隣の国との平和をどうつくるか,さまざまな立場で議論がなされています。私の学校のように国際生が多いところでも,「○○人はせこいよね」「○○には行きたくない」という会話が聞かれることがあり,がっかりしてしまいます。マスコミの影響が大きいのでしょう。子どもたちには,「国と国は仲良くなれないことが時々あるけど,そこに暮らしている子どもたちは,みんなと同じようにがんばって勉強したり遊んだりしているんだよ」と話しています。
 となりの国に大好きな友だちがいれば,その国と争いを起こしたいとは思いません。子どもたちが成長するときに,世界につながることをたくさん経験させたいと思います。
 相手と話してみたい,つながりたいという気持ちがあれば,私たちを取りまくたくさんのボーダー(境界線)はなくなっていきます。政治や宗教も,世代も,立場も,考え方も飛びこえて,ともに喜んだり笑ったりすることができます。ことばはそのとき,人と人をつなぐ手がかりとなります。
 今楽しんでいる『三びきのやぎのがらがらどん』や『ガンピーさんのふなあそび』などの物語が,そのきっかけとなればと願っています。

ラボっ子たちへ

小学生の頃、初めての発表会で『だるまちゃんとかみなりちゃん』を英語で発表する筆者(中央:だるまちゃん役)  ラボっ子のみなさんが,毎週当たり前のようにやっている「テーマ活動」。これは,実はすごいことなのです。
 テーマ活動は,何もないところからイメージを出しあい,表現してみて,話しあい,ひとつのものをつくり上げていきます。そこには,いっしょにつくる仲間がいます。だれかの計画にそって,その通りに全員が動くのは簡単なことです。しかし,テーマ活動では,幼児から大学生,それぞれに発言の機会があり,対話によって活動が進められます。
 社会に出てみて,当たり前のように思えるこのテーマ活動が,なかなか難しいことに気づきました。声の大きい人が意見を通したり,よいと思えることが日の目を見ないこともあるのです。
 ラボっ子のみなさんは、みんなで力を出し合えば、すばらしいことが起こることを知っているでしょう。あなたが人の話に耳をかたむけ、相手のよさが引き出されると、たがいに予想もしない展開が待っています。私はみなさんに自分のまわりに、みんなが安心して自分を表現できる場を、つくれる人になってほしいと願っています。
 私も、小学校の教員として、子どもたちや同僚たちとテーマ活動を続けていきたいと思います。英語も、行事も、日々の授業もテーマ活動。仲間とともに、「何かすてきなこと」をつくっていきましょう。

おはなしをうかがった方
井手 和佳子
井手 和佳子(いで わかこ)
 啓明学園初等学校 教諭
 小学校5年生から大学4年生までラボ・パーティに在籍。物語を表現する充実感,人とつながる楽しさを味わいながら過ごす。中学1年でホームステイを受け入れ,中学2年で国際交流(北米・ワシントン州)に参加。幼児から大学生・留学生がともに過ごすキャンプや地域活動で仲間を広げる。
 大学卒業後,百貨店に2年勤務した後,学校法人啓明学園初等学校で多くの子どもたちと出会い,「子ども浴」。国際色あふれ緑豊かな学校で,ダイナミックな総合学習に取り組んできた。デンマーク発祥の「森あそび」を小学校に取り入れるとともに,「学びの共同体」づくりを通して,ことばの教育を考える。表現よみ教育法研究会会員。

啓明学園初等学校 http://www.keimei.ac.jp/primary/guide/
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