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特集連載
第27回
人生に「いい絵」を

2013/7/19

関本浩詞/セキモト ヒロシ

 関本浩詞/セキモト ヒロシ
 ラボ教育センターの本社がある東京・新宿で,絵画教室「カサ・デ・ニーニョ」を主宰しておられる関本浩詞氏はラボとのつながりも深く,「バルバおじさん」という名前で,ラボの会員にも親しまれています。
 毎年9月にはラボ・カレンダーの絵の選考会があります。これは全国のラボの会員が夏休み中に描いた絵を応募,そのなかから翌年のカレンダーに掲載する絵が選ばれる,というもので,関本氏には開始当初から審査員をしていただいています。カサ・デ・ニーニョには,幼い子からおとなまでが通ってきていますが,その経験を生かし,子どもを育てるという観点から応募作品を観ていただいています。

子どもの絵は自然な行為

授業風景  子どもたちが絵を描くということは,見たもの感じたことなどを形にする遊びの一種です。人類がまだ言語を獲得していない昔から,人びとは絵で気持ちを伝え合ったり,ものを表現したりしてきたと思います。そのことからも,子どもたちが絵を描くことは,彼らにとって生活の一部であり自然な行為にほかならないと思います。  じょうずに話せない1歳前後の頃は手首や腕が未発達な状態なので,紙にクレヨンや鉛筆などをたたきつけるように描きます。きっと,紙に自分で色や点を増やしていくことに楽しさを見いだしているのでしょう。ときに,自分をアピールしている場合すらあります。
 2歳前後になると,線,線から円と,手首ではなく肩や肘などの身体を使って描くようになります。この頃は話をしながら描くことも多いです。円は閉じられていなかったりもしますが,これは本人のイメージとしては動物だったり,花だったり,車や人の顔だったりして自由自在です。こんなときに,円でも線でも子どもが描いたものをほめてあげれば,その子の世界はどんどん広がっていきます。
 以前,私の教室で,ある3歳の子が,ひとりごとをつぶやきながらいろいろな色で円をたくさん描き,色を塗っていたことがありました。話を聞いてみると,海の魚だといってにやにやしています。魚にはつながっている舟のようなものがくっついているので,これは何だと聞くと,はしごだというのです。「人間が溺れたら困るので,魚がはしごをおぶって泳いでいるんだ」ですって。この子のやさしさと心にひろがる宇宙に完敗でした。
授業風景  ことばを十分に話せない子どもが,自分のイメージを人に伝えようとするときの点や線や円は,彼らにとって重要な表現ですから,これらを描くときの頭の中はフル回転でしょう。作品ができあがるまでの過程を一緒に楽しんでみることは,とてもいいものですよ。「元気な線だね」「円が踊っているようだよ」…と,大好きな人に自分が描く一筆一筆をほめられながら絵を描けたら,きっとすてきな作品を完成させることができるでしょう。

子どもには本物を

写生会  5・6歳になる頃から,子どもにさまざまな変化がみられるようになります。教室を始めた当初,「好きな絵を描いていいよ」というと,「木は茶色だよ」といいながら,茶色一色で幹を塗り,花を描くとなぜか葉っぱはチューリップのような形を描く子が大勢いました。幼い頃に誰かが教えたのでしょうか。まるで洗脳されたかのようにみんな同じように描き,それが小学生になっても続くのです。これは残念なことでした。それ以来,子どもたちには本物を見せ,本物に触れさせるようにしてきました。そのことにより,子どもたちはいろいろな発見をします。ときには,小生が見逃したことを子どもたちが発見し,ジャブをいれてくることもあります。
 写生会を開いたときのことです。写生会ははじめてだという子に,「好きなところを好きなように描いていいんだよ。下描きはなし。描くときは,よく見て描きなさい」とアドヴァイスしました。すると彼は,太い幹にたどり着きました。何回か失敗するのですが「失敗してもだいじょうぶ。失敗したほうがいい絵になるよ」というと,いろんな色をこれでもかというように塗り重ね,ひたすら幹を描き続けたのです。写生会が終わったとき,彼の画用紙には樹齢を数百年重ねた木がありました。ほんものの太い樹があったのです。うれしくて,思わず彼の頭をコツンとしていました。子どもは発見が多いほど,ものを見る力を養っていきます。同時にそれが心の成長にもつながっているのではないかと思っています。

「じょうずな絵」より「いい絵」を

アルタミラ洞窟の壁画  長年,絵画教室をやっていると,絵を描くことが好きな子ももちろん多いですが,最近では気分転換にくる子や絵が苦手だと思う子も通ってくるようになりました。この国は,なんでも点数をつけることが好きな国です。学校制度が始まった頃,間違った美術教授法や技法が導入されました。それはいまも修正されず,子どもたちに点数をつけてランクに分けています。その結果,自分は絵がへただ,絵を描けない,と思ってしまう子どもをつくっているように思います。
 以前,旧石器時代スペインのアルタミラ洞窟の壁画を見たとき,そのすばらしさにおもわずことばを失いました。ほとんどの壁画は稚拙な表現ではあります。しかし,いい絵なのです。それぞれ何かを問いかけてきます。いい絵というのは,技術的にうまいとかへただとかいうこととはあまり関係がありません。この壁画は子どもの作品に似ていました。つねづね私は,子どもたちの絵をほめるときには「いい絵だね」といっています。「じょうずな絵」より「いい絵」のほうがレベルが高いと私は思っているのです。

未来につなげる表現

生徒展の様子  テレビなどで,子どもたちが著名な画家と絵を描く番組を何度か観たことがあります。このような番組の場合,例外なく子どもたちは楽しそうに絵を描いています。教えている画家はどの方も「子どもたちに教えることなんかない。好きに描けばいいし,おとなの役目としては,ほめてあげればいいのです」とおっしゃいます。おそらく教えておられる画家も,子どもの頃から絵を描くのが楽しかったのではないでしょうか。しかし現実には,筆を持って白い画用紙に向かったまま固まってしまっている子がいます。私の教室にもいますし,ラボで呼ばれて絵のワークショップをするときにもそんな子はいます。うまい絵を描かないといけいないとか,自分はへただから笑われるとか,そもそも自分を表現することに慣れていないとか,いろんなことが子どもの心の中でうずまくのでしょう。そんな子に「好きなように描いてもいい」といっても,むずかしい場合があります。そんなときには葛飾北斎が教えてくれた円の話をもとにして形についてお話ししたり,色遊びをしながら色彩を楽しんでもらったりしています。子どもが絵を通して自分を表現することに対して,心を開いていけるようにするにはどうしたらいいかを,いつも考えます。もちろん,タイミングをみてほめてあげることはたいせつだと思っています。子どもも高学年になってくればシビアになってきますから,いい加減なほめことばは見透かされます。ほめることはしかることと同じくらいむずかしいことで,こちらもはっとさせられることがしばしばです。しかし,そうやっていい絵ができたときの,子どものほっとした顔を見るのはいいものです。
アルタミラ洞窟の壁画  子どもは絵を描くことが好きです。点数などでランク付けされて絵が嫌いになるのではなく,いい絵を描いていってほしい。彼らの人生で,一生絵を描いていくということはまれなことかもしれません。しかしそれぞれの生活のなかで,いつも何かに感動したり何かを想像したりして,頭の中,心の中にいい絵を描いていってほしいと思うのです。

おはなしをうかがった方
関本浩詞
関本浩詞(せきもと・ひろし)
 若い頃にスペインの美術研究所に所属。
牧童たちと生活をともにしながら絵画を研究。帰国後は油絵を中心に創作活動を続けるかたわら,東京・新宿で絵画教室「カサ・デ・ニーニョ」を主宰。また,全国各地の幼稚園などでの出張教室や,ラボで講演会・ワークショップも開催している。2000年には,山梨に焼き釜を備えたアトリエ「竹菁(ちくせい)」をオープンし,陶芸も行なっている。
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