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特集連載
第25回
 はじまり,そしてこれからの物語
 ― 子ども時代にたいせつにしたい3つの<間>

2013/5/1

目黒 実/メグロ ミノル

 目黒 実/メグロ ミノル
「時間」「空間」「仲間」……この3つの<間>は,子ども時代に欠かすことのできないたいせつな<間>です。
人より早く,より前へ,より効率よく……と追い立てられるような毎日を過ごす子どもたち。自由な時間を楽しむ余裕がなく,日が暮れるまで遊んだり,好きなことに集中したりする時間と空間がなくなってきました。そしてそれらの時間と空間を共有する仲間も少なくなりました。子ども時代にとってたいせつな“遊び”。3つの<間>で構成されている,その“遊び”さえも,広場などの集団遊びからインターネット,コンピューターゲーム,携帯電話といった個室遊びへと変貌し,子どもたちの生のふれあいの場は,今や本当に貴重なものとなりました。
「便利さや豊かさを追求するあまりに今の社会は子どもたちの居場所を奪っている!」
「今,社会に必要なのはこの失った“3つの<間>”を再生していくこと!」
「子ども時代は,大人になるための予備訓練の時間ではない!」
「思い切り遊び,学び,ふれあうこと……そんな子どもしかできない,子どものときに欠かすことのできないことをする場が必要だ!」
そんな思いを抱き,魅力的な子どもの未来を創造することを目的とした“子どもプロジェクト”を立ち上げ,子どもの感性と想像力を研究し,地域の子ども居場所づくりを展開しているのは,九州大学大学院特任教授目黒実先生。今回は目黒先生ご自身の寄稿で,先生が実践されている“絵本カーニバル”,廃校などを再生し活用した“チルドレンズ・ミュージアム”という,時代が求める新しい遊びと学びの場を紹介します。

「子どものなかの宇宙」へ

 『子どもの宇宙』(河合隼雄著)の冒頭はこう書かれています。
「この宇宙のなかに子どもたちがいる。これは誰でも知っている。しかし,ひとりひとりの子どものなかに宇宙があることを誰もが知っているだろうか。それは,無限の広がりと深さをもって存在している」
 この言葉がボクの人生を変えました。
 1987年のこと。
 それからは「宇宙のなかの子どもたち」へ,「子どものなかの宇宙」へ,栄養素を送り届けることに邁進していこうと決めたのです。
 さらに背中を押してくれたのは,童話作家の坪田譲二さんの言葉,「子どもに関わるなら,子ども時代の記憶をたんと持っている人がいい」。
そう,子ども時代の記憶なら,イッパイ持っているような気がするからボクにはできるんじゃないか,と。
 「年をとるというのは年輪をかさねるようなものだ。そして,幾つになってもその中心には子ども時代の自分がいる」と,詩人の谷川俊太郎さん。
 確かに「年々歳々花相似たり,歳々年々人同じからず」です。しかし,同じではない人でも,心の中の中心にはいつも,子ども時代の自分が棲んでいるのではないでしょうか。子ども時代の中に,その人の価値観,世界観の基層はあり,幾つになっても,そこから滲み出てくるのです。
「子ども時代にどのように愛されたか,どんなものを食べたか,どんな本を読んだかで,その人の骨格が決まるような気がする」と,作家の江國香織さん。
 その言葉たちは,ずっとボクの五臓六腑を駆け巡ってきました。
 そしてこれまで,何度も何度も声に出して復唱してきました。
 それはその後,子どもたちに向けた『らくがき絵本』(五味太郎),『はじまりはじまり』(荒井良二),『くまのがっこう』(あいはらひろゆき・あだちなみ),『魔女図鑑』(角野栄子),『魔女になりたかった妖精』(ブリジット・ミンヌ,カルル・クヌート・目黒実訳),『リサとガスパール』(アン・グットマン:ゲオルク・ハレンスレーベン・石津ちひろ訳)の絵本をつくることへと確実に繋がったように思っています。

絵本のある空間と時間を届ける「絵本カーニバル」

「絵本カーニバル」では絵本たちがこちらを向いて迎えます  小さきもの、善きもの、懐かしいもの、大きなもの、不条理なもの、旧きもの、夢見るもの、年老いたもの、悪しきもの、気持ちのよいもの― 絵本の世界の中には、生きていくうえで大切なものがすべて描かれています。絵本は、生きていくこと、生きるのに値するもの、人生を肯定してくれる、魅力的な存在です。そして、絵本の世界の中で、実現された夢も実現されなかった夢も、その志によって等しく祝福され、世界の誰かに手わたされ、受けつがれていきます。
物館や美術館,福祉施設や子ども病院にも絵本カーニバルを届けています
 そんな、たくさんの、そしてさまざまな絵本に出会う空間と、時間を届ける「絵本カーニバル」という活動を、10年以上にわたり続けています。これは全国津々浦々の図書館、美術館、科学館や文化ホールへとトラベリングしてきました。
 また、6年前からは全国の子ども病院や、大学病院の小児医療センターに、長期の入院を余議なくされている子どもたちと付き添われている家族の方々へ「絵本カーニバル」を届けてきました。「NPO法人 絵本カーニバル」を設立し、今も全国の、子ども病院や福祉施設、博物館や美術館、劇場へトラベリングしています。

 演劇分野では,東京下北沢の「本多劇場」や杉並区の「座・高円寺」のプロジェクトに加わり,劇場の設立だけでなく,子どもたち向けのコンテンツとして「オズの魔法使い」や「小さなちいさな風の中の賢治たち」のキッズミュージカル作品やワークショップを届けてきました。

子どものための第三の居場所づくり「チルドレンズミュージアム」

チルドレンズミュージアムでの絵本カーニバル  また,福島,兵庫,沖縄,岐阜では,チルドレンズミュージアムやサイエンスミュージアムをプロデュースし,学校でも家庭でもない,地域の中の子どものための第三の居場所づくりを続けてきました。その時々で,必ずボクの心には「子どものなかの宇宙」という言葉があり,それぞれのチルドレンズミュージアムを手掛ける際の理念でもありました。そしてその言葉とともに,「再生=Re」をコンセプトとし,閉校した中学校,老朽化した遊園地や動物園をつくりかえ,「地球」「農業」「芸術」「仕事」「自然」「サイエンス」をテーマとした展示・ワークショップ・運営に精力を傾けてきました。
 そして,ボクを動かしてくれたその言葉を紡いだ,河合隼雄さんが生まれ育った兵庫県篠山市では,河合さんとともに「篠山チルドレンズミュージアム」をつくることができました。河合さんが名誉館長,ボクが副館長として運営を担いました。

子どもたちの三つの間「時間・空間・仲間」の恢復(かいふく)を

 8年前からは,東京から福岡へ。九州大学に活動の拠点を移し,九州大学子どもプロジェクトを主宰し,子どもの居場所づくりを行うとともに,「実践子ども学」,「子どもの本のカーニバル」,「子どもとともにデザイン展」,「子どもたちの移動祝祭日展」,「宮沢賢治展」「インゴ・ギュンター展 地球108の顔」を開催してきました。
また,ユーザー感性学専攻感性コミュニケーションという九州大学の大学院の設立に参画し,現在その大学院では,子どもに関わるチャイルドライフ・コミュニケーターを育てています。

 また,昨年から福岡市西区では,元畳屋さんだった一軒家を改装し,「子どもスコーレ」として,九州大学子どもプロジェクトとは別に,新しい子どもの居場所をつくり,子どもたちの三つの間,「時間・空間・仲間」を恢復(かいふく)すべく,子どもたちとともに遊びと学びを堪能しています。「スコーレ」とは学校の語源となったギリシャ語で,「遊び」と「学び」と「余暇」を指します。部屋の一角には50年前にドイツでつくられたプラテンという活版印刷機を設置し,子どもたちとの魅力的な活動記録をいつかつくりたいと思っています。

 今月末(2013年3月)には,これまでの活動の集大成としての『魔女の宅急便』の作家角野栄子さんたちとともに,「財団法人・子ども未来研究センター」を設立し,子どもたちに対する学術研究と実践活動が往還できるようなシンクタンク&ドゥタンクを運営していきたいと考えています。

物語を探し,語り,創り続けていこう

物語スコーレも全国へトラベリングしています  九州大学大学院では,ボク自身は「子ども居場所論」と「物語スコーレ」という授業を担当しています。現在ライフワークとしている「物語スコーレ」とは,作家性や表現の可能性を,物語を通して探るとともに,愉しい,悲しい,不思議な,大切な思い出や,さまざまな体験,経験を,自らの物語表現として感じ,語り,作品化していく,想像性と創造性を引き出す新しい表現活動です。「物語を探す,読む,語る,批評する,創作する。物語の中に子どもを探す,もう一人の自分を探す」をテーマに,九州大学だけでなく,京都造形芸術大学,はこだて未来大学,西南学院大学や,全国の魅力的なコミュニティの図書館や公民館,チルドレンズミュージアムなどにも声を掛けていただき,各地で「物語スコーレ」を開催しています。子どもを含め老若男女とともに,今後もオーディエンスとともに,物語を探し,語り,創り続けていこうと思っています。
 この活動は,みなさまのラボ教育の活動とどこかで交差し,テューターとの協同作業が行われ,そのクロスした時空に「新しい物語のブログラム」がつくれたら,と考えています。
 いつの日か「物語の言葉」を通してどこかで出逢うことを心から願って !

目黒 実(九州大学大学院特任教授・財団法人子ども未来研究センター代表理事)

おはなしをうかがった方
目黒 実
目黒 実(めぐろみのる)
 世界12カ国で出版されている『らくがき絵本』(五味太郎著)や,『魔女図鑑』(角野栄子著),『はじまりはじまり』(荒井良二著),「リサとガスパール」(アン・グットマン,ゲオルク・ハレンスレーベン著)など,絵本と子どものための本の刊行,プロデュースを手掛ける。
 1994年には,日本初のチルドレンズミュージアムを福島県霊山町でプロデュース。その後,河合隼雄氏とともに兵庫県篠山市で廃校になった中学校をチルドレンズミュージアムとして再生。沖縄県沖縄市では,老朽化した「こどもの国・動物園」をワンダー・ミュージアムとして再生する。
 2004年より,九州大学ユーザーサイエンス機構の特任教授として,子どもプロジェクトを主宰。実践子ども学の構築,子どもの居場所づくりの研究を進め,2009年からは,九州大学が設立した新大学院「統合新領域学府ユーザー感性学専攻」の特任教授に就任。感性コミュニケーションコースを担当し,医療・福祉・司法分野でのチャイルドライフ・コミュニケーターや,図書館・博物館・美術館・チルドレンズミュージアム・地域社会でのアート・ディレクターなど,子どもに関わる人材育成の分野で,「子ども論」「チルドレンズミュージアム論」「絵本論」などの授業を行っている。全国の子ども病院へ「絵本カーニバル」をトラベリングするとともに,「インゴ・ギュンター展 地球108の顔」,「子どもとともにデザイン展」,「宮沢賢治展」,「本の本展‐本を愛する本の物語」,「本と,読書と,恋愛と。展」などを,全国各地の美術館や図書館,文化施設などでプロデュース。
 「旅する絵本カーニバル」,「九州大学小児医療センターのデザイン」,「子どもとともにデザイン展」で2006年度グッドデザイン賞,2008年度知的資源イニシアティブ優秀賞を受賞。
 また,2013年,子どもたちに関する学術研究と実践活動の往還を実現するための,シンクタンク&ドゥタンクとして「財団法人・子ども未来研究センター」を設立。地域再生に向けたあらたな活動にも取り組んでいる。
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