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特集連載
第24回
自転車世界一周の経験を通じて

2013/4/4

坂本達/サカモトタツ

 坂本達/サカモトタツ
 小学生のころからの夢「自転車で世界一周」を実現した坂本達さん。帰国後は会社に勤めながら,全国で「夢を伝え続ける講演活動」を展開されています。またそうした旅の記録を収めた『やった。』『ほった。』『100万回のありがとう〜自転車に夢のせて〜』という書籍を出版。その印税を,世界一周の旅で命を助けてくれた人たちがいるギニアに井戸を掘ったり,診療所を建てたりする恩返し活動に充てたり,東日本大震災の被災義援金や被災学生への奨学金として全額寄付されています。
 坂本達さんには,全国各地のラボ・パーティで,自転車での世界一周や,さまざまな支援プロジェクトについて,子どもたちに講演をしていただいています。今回は,坂本さんが子どものころ世界へと目を向けるきっかけとなったエピソードや,ギニアで病気にかかり,村の人々に命を助けてもらった話などを中心に,子どもたち,若者たちへのメッセージを書いていただきました。

「世界はもっと広い」

 ぼくは小学校2年生のときに,父親の仕事の関係で家族でフランスに渡り,3年半暮らしました。5年生の終わりに帰国して,日本の学校に転校したときの出来事です。
 前の学校で「カッコいい」といわれていたお気に入りのズボンをはいて行ったのですが,「なんだ,あのズボン」「変なの,カッコ悪い」という声が聞こえました。席に着き,かばんから筆箱を取り出しました。すると今度は,「何だ,そのかばんは」「何,その筆箱」と,みんなと違うことを指摘され,仲間はずれにされました。共通の話題も少なく学校が嫌になり,そのころ「自分は一生,このまま暗い人生を送るんだ」と思っていたのです。
 そんなとき,父が世界地図を見せてくれ,こう諭してくれました。「今,学校はおもしろくないかもしれない。だけど学校がすべてではない。世界はもっと広くて,いろんな人がいて,いろんな考え方がある。だからあきらめちゃいけない」と。そのことばでぼくは,世界中の人に会ってみたい,という夢をもったのです。これが夢の始まりでした。
 小学生のときの夢が社会人になって4年目,26歳のときに実現することになりました。それから4年3か月かけて自転車で世界一周,43か国,5万5千キロを走破することになります。それもなんと勤務先の「有給休暇」という破格な扱いで。「世界一周したい」という社員の申し出に,「4年以上の有給休暇をあげるから行ってきなさい」といってくれる会社はありません。たいてい「会社を辞めてください」といわれます。ではどうやって会社(社長)を説得したのか……。それについてはまた別の機会にお伝えできたらと思います。

「生かされている」と感じた経験 〜西アフリカ・ギニア共和国

村で最後のマラリア治療薬を注射してもらい,命を助けられた。ギニアの村にて  村では目にするものすべてが新鮮で,感動を抑えることができない。同じ時代に生きながら,大昔のように木をこすり合わせて火をおこし,パチンコやワナで猟をして暮らしている。出会いは楽しいが,連日の自転車走行と暑さで疲労がピークに達していた。
 その日の夕方,今も現地で大勢の人が亡くなる病気,マラリアを発病させてしまった。悪寒で体が震えて止まらない。熱が40度以上になり,自力で動けなくなった。下痢には血便が混じり,なんと赤痢も併発していた。
著書『やった。』の印税で,「恩返しの井戸」が完成。旅の命の恩人たちへ  村にいたシェリフという名のギニア人医師が「このままでは手遅れになる」と注射を打って治療してくれた。療養中,「ぼくに打ってくれた薬はどれ?」と聞くと「もうない」という。シェリフは村に残っていた最後の注射を,ぼくのために使っていた。
 村人が血便の付いたパンツを手で洗ってくれた。近所のおばちゃんがぼくの手を握りしめ,「だいじょうぶ」と腕をさすってくれる。手の温もりが,何よりありがたかった。「日本では病気のとき,お粥を食べるんだ」なんて話したら,翌日「こんなのはじめて作った」と,鍋いっぱいのお粥を持ってきてくれた。母が持たせてくれた梅干と一緒に食べながら,涙が止まらなかった。
井戸完成の4年後,シェリフ医師の診療所が完成(ギニア)  出発の朝,ぼくはことばがみつからず,シェリフにただ「ありがとう」をくり返した。せめて薬代だけでも払おうとしたが,「友だちからお金は受け取れない」。
 ぼくはペダルをこぎ続けた。自転車にまたがり旅を続けることができる感動が,自分を勇気づける。一方で自分一人では何もできないことを確信し,強く思った。「自分は生きているのではない。生かされているのだ」と。
 世界一周から帰国後,著書の印税を全額使い,「命の恩返しプロジェクト」を続けている。お世話になったシェリフ医師や村人たちに村にはじめての井戸を作り,診療所建設や医師になるための学生の奨学金制度を立ち上げた。

「すべて自分次第」

ブータンでは年間最も盛大なお祭り(ツェチュ)に巡りあえた・本物は誰だ?(パキスタン,ギルギットの市場にて)  西アフリカの奥深いジャングルを抜けると,遠くに目的の村が見えてきた。家いえから煙が立っているのが見える。きっと夕食の仕度をしているのだろう。
 村に着いたという安心感と同時に,胃のあたりがキュッとなる嫌な緊張が走る。毎日のことだが,これから向かう村では誰もぼくのことは知らないし,ぼくが現れるなんて想像もしていない。ことばもうまく通じないし,悪いやつがいるかもしれない。でもぼくは,この村にたったひとりで入って行かなくてはならない。水は底をついているし,食料の補給をしなくてはならない。次の村までの情報を得る必要もある。
 旅のはじめのころ,村に着くと「ここはいい村だ」「運がよかった」とか,「あぁ,嫌な村だ」「運が悪かった」と思っていた。が,やがて出会いは自分次第で変わってくることに気がついた。
アンデス山脈の標高4000メートルを超す峠にて(アルゼンチン・チリの国境)・お世話になったクルド族の家族と(トルコ)  「こんな自分じゃきっとダメだ」「嫌なやつがいるかもしれない」「受け入れてもらえないだろう」と思って村に入って行くと,いい出会いがなく運にも見放された。逆に「昨日の村では受け入れられた」「だから今日もだいじょうぶ」「きっといい出会いがある」と自分を信じて村に向かうと,いい出会いに恵まれた。村に入る時に,自分がもっている相手や自分自身に対するイメージ,挨拶や自己紹介など,自分の一挙一動がこれから起こることを強く方向づけていた。現地の人たちや状況のせいではなく,物事は自分次第で展開する。思い通りになることばかりではないが,やるだけのことをやれば後悔はない。そんなことを思いながらペダルをこぎ続けた。



子どもたちからの質問コーナー!

 現在ぼくは会社勤めをしていますが,全国の学校などで積極的に講演活動もしています。講演会では子どもたちからさまざまな質問をもらいますので,代表的なものをあげてお答えすることでメッセージをお伝えできたらと思います。

1. 世界一周中で嫌になったとき,壁に当たったとき,くじけそうになったとき,何を心の支えにしていましたか?
 「自分のやりたいこと」を日本ではもちろん,海外でも出会うたくさんの人が応援してくれたということが,心の支えになりました。また,病気になって動けなくなったり,物を売ってもらえなかったり,賄賂を要求されたり,石を投げられたり,つらいこともたくさんありました。でも思い通りにならない部分を見て不満をもつのではなく,「いいところ」「変えられるところ」を見つけて感謝したり,意識して物事の明るい面を探すようにしたりしました。悲観的になっていると,事態がさらに悪化するからです。

2. ぼくは世界へ行く勇気がないのですが,勇気を出すにはどうすればいいですか?
 準備をしっかりすることです。何かを成功させるための8割は準備にあると思っています。誰でもはじめてのことは怖く感じるものです。小さなことでも準備を積み重ねていくと,イメージがわいてきて勇気と自信が出てきます。たくさんの経験をして,そこから学び,その体験を信じることだと思います。一緒にする仲間や,理解して励ましてくれる仲間をつくるのもいいと思います。
 「勇気がない」とのことですが,ぼくの父は「臆病なのは危険を予知する能力があり,他の人には見えないチャンスをつかむ能力があるということだ」と,教えてくれました。

3. 世界を一周したことで,何か変わりましたか?
 当たり前のことは何ひとつ無い,ということがわかり,小さなことにも大いに感謝をしなくてはならないと思うようになりました。家族がいて,健康な体があり,平和があり,笑うことができる。これらはけっして当たり前ではありません。また,どんなに自分ががんばっても変えることができない,大自然や文化やことばの壁の前で,自分の無力さを実感したことで,謙虚になれたと思います。

最後に……

2000年8月、ラボ川原パーティで講演「旅する自転車――世界一周、100万回のありがとう」  実はこれまでに全国のラボで講演に呼んでいただき,多くの方がたとご縁がありました。お世話になったみなさま,本を購入してくださったみなさま,ありがとうございました。国際交流の集いや45周年にも招かれていますので,「聞いたことがある!」「本にサインをもらった!」というラボっ子も多いと思います。最初にラボとのご縁をいただいたのは,千葉県柏市の川原テューターです。
 今年の夏から秋にかけて,自転車で講演をしながら日本を走る「夢の架け橋プロジェクト・パート2」を企画しています。今回は息子を連れて走ろうと思っていますが,まだ2歳ですのでどれだけのことができるか未知数です。来年以降の企画になるかもしれませんが,「講演会を企画したい!」というお声をいただければ,できる限りお応えしたいと思っています。全国のみなさんとお会いできるのを楽しみにしています。

おはなしをうかがった方
藻谷浩介
坂本達(さかもと たつ)
株式会社ミキハウス社長室(自転車で世界を走る会社員)
1968年東京都生まれ。小学生時代、世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランスに魅せられ、自転車の虜に。92年、早稲田大学政治経済学部卒業、ミキハウスに入社。95年から4年3ヶ月間、有給休暇で自転車世界一周。02年、自転車日本縦断の「夢の架け橋プロジェクト」で北海道から沖縄まで全国講演。04年、内閣府主催「東南アジア青年の船」にナショナルリーダーとして参加。05年、愛・地球博「地球を愛する100人」に出演。同年、ギニアに「恩返しプロジェクト」の井戸が完成。09年、ギニアに診療所、ブータンには幼稚園と小学校が完成。第19回「関西・こころの賞」受賞。「ファウストA.G.アワード2009社会貢献活動賞」受賞。著書に『やった。』『ほった。』(三起商行)、フォトエッセイ 『100万回のありがとう〜自転車に夢のせて』(福音社)、坂本達ドキュメンタリーDVD「夢 その先に見えるもの」(文部科学省選定作品・TM OFFICE)など。
現在勤務の傍ら講演活動を続け、著書の印税でお世話になったギニアの村で医師を目指す学生の奨学金制度を設立。ブータンでは幼稚園&小学校を支援。東日本大震災以降、2011年は日本赤十字社を通じて、2012年は被災学生に対する奨学金等として印税を全額寄付。

坂本達オフィシャルサイト
http://www.mikihouse.co.jp/tatsu
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