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特集連載
第23回
私がラボで学んだ,かけがえのない宝

2013/2/4

藻谷浩介/モタニコウスケ(株式会社日本総合研究所調査部主席研究員)

 藻谷浩介/モタニコウスケ
 エコノミストとして活躍されている藻谷浩介氏は,小学校から高校までラボ・パーティに在籍,中学2年生でラボ国際交流ホームステイに参加,また高校時代はラボ・キャンプのシニアメイト(国際交流キャンプのリーダー)として活躍されました。
 現在は日本総合研究所主席研究員として,日本全国および海外各地で,そのエリアの特性を活かした地域振興の講演をされています。2010年には累計3000回以上行なってこられた講演経験をもとに『デフレの正体』(角川新書)を著されました(他にも著書多数)。
 東日本大震災後は,政府の復興構想会議,朝日新聞社が設立した「ニッポン前へ委員会」のメンバーに選ばれ,新聞やテレビで復興へ向けた提言をされています。
 今回は,2011年秋に福山市と周南市で行なわれた講演の抜粋を寄稿していただきました。

自分の目で見て判断する

2013年1月,ラボ・パーティ中国四国支部総会で講演する藻谷浩介氏  私は山口県周南市で三人兄弟の次男として生まれ,子どもの進路には口をださないという方針の親のもとで育ちました。でも親はラボだけは行かせてくれ,すっかり夢中になりました。
 ところでみなさん,日本海は何色だと思いますか? 「鉛色」と答えられる方が多いのではないでしょうか。いかに人間はテレビなどによってイメージを植えつけられてしまうかということがわかります。実際,私が見る日本海の色はほとんどの場合は沖縄と同じ,コバルトブルーです。現地に行って,見て,もっていた先入観を捨てて取りかからないとほんとうのことはわかりません。人間は人から聞いたイメージでものを考えがちですが,ほんとうのことを知りたいのなら現実を見ないといけません。
 そういったことはテーマ活動(英語または英語と日本語で行なう劇活動)『はだかの王様』で学びました。仕立屋が皇帝は服を着ているというから,人びとも「そうだ,そうだ,すばらしい」「すごい服を着ている」ともっともらしく話している。でも子どもがやってきて「皇帝はまっぱだかよ!」という。物語のなかの人びとが仕立屋を信じていたように,多くの人間は人のイメージに惑わされがちです。インターネットで文章を書いている人の情報源のほとんどはテレビのワイドショーです,書いている人は実際にはなにも見ていない。テレビのニュースを作っている人も,インターネットで情報を得たり,えらい先生がいうことを裏もとらずにそのまま流したりしている。
 私はテレビを観ませんし,ネットの検索もしない。現場を実際に見に行ってどうか,見ながらほんとうはどうなのかと考える。実際に見てみないとわからないことはたくさんあるのです。私は自分で,日本海を見て,コバルトブルーだと思ったら「コバルトブルーだ」と判断します。そういう生き方をしてきています。

人間関係を学んだラボ・キャンプ

藻谷氏がシニアメイト(キャンプ・リーダー)として参加した1981年ラボ・スプリングキャンプ(シニアメイト集合写真)  いま私は銀行員です。銀行というのは組織的な縛りがきついのですが,講演などの情報発信活動を業務にして,ご依頼いただいた先の都合を最大限に優先できる自由を獲得してきました。上司の都合や自分の都合ではなく,お客様の都合や自分を見込んでものを頼んでくれている人の都合を最優先した方がいい結果がでると,経験的にわかっているからです。
 これもラボで活動していた頃に学んだことです。「小さい子はどうだろう? 仕方なくやらされているのだろうか?」「テーマ活動で壁の花になっている子はどうだろう? 地味にくふうしている子もいるよな」。高校生のときにシニアメイト(ラボ・キャンプのリーダー)をしたときのように,声なき声を聞くのです。私は最初の頃はラボ・キャンプでも隅っこにいるような子でしたから,同じような子がいると「あのときの私がどうしたら耳を傾けてくれるだろう?」と考えます。そういった隅っこにいる人が少しやる気になる状況をどうつくるかということを考えていくと,社会で役に立ちます。リーダーになった際に,仕事をしない人をどうすれば仕事をするようになるのかを考えると,会社全体の効率が上がります。最初からできる人間だけを相手にして管理しているフリだけすれば,上司の覚えはめでたくなるかもしれませんが,決して全体の成果はでてきません。けれどそんなことは,受験勉強では教えてくれません。ラボ・キャンプのように,まったくちがった人間が集まって「さあ,やるぞ」という経験をしていないとそういうことはできないのです。
 人間関係は出会って失敗することもある,くやしい思いもする,うまくいくことばかりではありませんが,それがたいせつです。受験勉強はつねに正解を求められますが,人間関係は100点満点をとるのが目的ではない。ここはうまくいくけど,ここはうまくいかないし,点数がつかないから余計わからない。なにか後悔が残っていると感じる。人間関係は失敗からしか学べません。「シニアメイトはしていたけれど,キャンパーにはどう思われていたのだろう。ペアを組んだ相手はどうだったのだろう。」そういった振り返りが人生の糧になるのです。社会に出たらすべてがそんな感じです。ラボではそういった学校ではできない経験をしたと感じています。人間なんて何回か会ってみないとわからないものですが,実際の社会では,はじめて会った人となにかしなくてはならない。ラボのキャンプでははじめて会った人と,たった3日間でなにかをつくりあげていく。そんな経験がいまとても役立っています。

さまざまな人間がいる現実の社会で求められる人間

 会社に入って留学したアメリカのコロンビアのビジネス・スクールでのことです。30もの人種がいて,年齢も性別もバラバラのなかで,多くの授業では6人ぐらいのグループを組んで1つのレポートを提出する方式が取られていました。レポートの出来次第でグループメンバーの得点は全員同じになるのですが,グループのなかには中心になって文を書くメンバーもいれば顔を出しているだけというような学生もいるわけです。ある日,ひとりのアメリカ人が「グループに十二分に貢献しているオレとそうでない奴と,点数がいっしょなのはおかしい!」と先生に文句をいいました。するとその先生は「ここはビジネス・スクールだ。社会に出たらどうだ? 会社を経営したらどうだ? すべての経済活動,企業活動はグループで行なわなければならないんだ。社会は仕事のできない人,性格の合わない人ともいっしょやらければいけない,お前ひとりの仕事に点数がつくのではないんだ」と答えました。個人主義のアメリカでもビジネス・スクールでそういったことを教えていたのです。ここでもラボでやっていたことが役に立ちました。私は相手からなにを求められているのか,グループのなかでなにができるのかと考えたのです。
 他人をおいて自分ひとりだけ先にゴールインする人だけを誉めると,組織の力は弱くなります。皆で手をつないで走るのだけれども,なかにその人を入れておくとなぜかみんなが早くゴールインできる,和気あいあいとゴールインできる,落伍者が出ずにゴールインできる,そんな人間こそ必要なのではないでしょうか。
 「お受験」の世界では,いっしょに試験を受けている人のなかに風邪をひいていたり,寝不足だったりする人間がいると自分にとって有利です。他人が失敗することが自分の得になるという,心が荒んでいくような世界です。そこに浸っていると,他人が失敗するとなんだかうれしいという,訳のわからない精神状態があたり前になってきます。
 実際の世の中は「お受験」の世界とは逆で,あなた以外の人が見ていないところでがんばってくれることが,自分にとってもいい結果を産むのです。花壇に花を植えてくれる人,トイレを掃除してくれる人,そういった人のおかげで私たちは生きていられる。私たちはお互いのがんばりのおかげで生きているのです。他人が失敗していることで自分が得をしているのではない。他人がそれぞれできることを精いっぱいしていることによって,自分も安全に生活していられるのです。そういうあたり前のことを,「お受験」で他人に差をつけることが生きる道だと信じ込まされてきた人ほど,理解できなくなっている。

これからの日本は競争ではなく共生

2013年1月,ラボ・パーティ東京支部総会で講演する藻谷浩介氏  これからの世代は,昔とは比べものにならないくらい少ない人数で社会活動をやっていかなければいけない。この先,日本人が少なくなっていくなか,一人ひとりがしっかり生きていかなければいけないのであって,もう他人を振り落としてうまくいくような時代ではないのです。現実の社会では,他人を蹴落とすのではなくて,みんなでゴールしたほうがいい。それも楽しくしたほうがよりいい。そのことを私はラボ活動をしていたからわかるのですが,みなさんはいかがでしょうか。
 いま日本の多くの会社の業績が不振なのは,物を旺盛に消費する現役世代の絶対数が,15年前から減少に転じている,というのが原因です。64歳以下の日本人は15年前から減る一方なので,日本の主力商品である車や家電製品が昔のようには売れない。
ですがこの20年間,日本の輸出は増えています。バブル期の20年前の日本の輸出額は41兆円でした。昨年は1.5倍の64兆円にまでなっています。中国との取引を見ますと。10年前には日本が赤字だったのに,去年(2010年)は史上最高の4兆円もの黒字。ここ10年ほど中国が年々栄えるなかで,日本も中国から儲けています。輸出だけ見れば日本はたいへんな好景気なのです。でもいくら輸出できても,国内で働いて給料をもらってモノを買う現役世代の人数はどんどん減っていますから,ほんとうの景気はよくならない。国内で物が売れないから外国に売っているというのが真相です。ここ10年の間に従業員がどんどん退職していくなか,機械が代わって物を作るようになったおかげで輸出製造業は人件費を2割程度削減でき,海外生産品との競争力が強くなって輸出がどんどん増えたわけですが,働いている人が減っているので内需は増えない。国内はいつまでも不況です。
 さて,政治家や,テレビのワイドショーはこういった数字を見てもいません。韓国,中国,インドなどのアジアが伸びてきた,ということは,日本はその割を食って衰退しているに違いない,と決めつけています。実際には逆で,アジアが伸びるほど日本の黒字も増えているのですが,世の中はお受験とは違う世界なのだということに気付いていない。「世界はライバルどうし,つまりまわり皆は自分の敵だ」と思っているのかもしれません。幼い頃から紙の上での教育ばかり受けていて,世界の人と実際に出会って話すという教育を受けていないからかもしれませんね。私は,ラボの国際交流に参加して「人間は基本的におんなじだ」という原体験をしていますから,外国の人びとが日本をやっつけようとしているのだというようなことを,本能として受け入れられません。お互い人間のやっている国どうし,仲よくなったほうが経済的にもいいのです。
 ラボの仕組みは実際の社会の仕組みと同じです。10人いたら10人が10人なりに自分を表現している。主役だけが盛り上がるのではなく,みんなが盛りあがる。裏では大きな子が小さな子を助けている。私はそういう社会がいい社会だと考えるし,そういう社会をつくることのできる人間こそが社会にでて役に立っていけるのだと思います。みんながしっかりすることをして,楽しくやっていくことがひじょうにたいせつ。なにもしなくても,明るく生きている人が隣にいるだけでいいのです。ぜひ,皆が楽しく生きていける世の中にしていきましょう。

おはなしをうかがった方
藻谷浩介
藻谷浩介(モタニコウスケ)
 株式会社日本総合研究所調査部主席研究員。山口県周南市出身。東京大学法学部卒業。日本開発銀行に入行し,米国コロンビア大学経営大学院に留学・卒業(経営学修士=MBA)。日本政策投資銀行参事役,(財)日本経済研究所研究員などを歴任。2000年ごろより地域振興の各分野で精力的に研究・著作・講演を行なう。平成合併前の3,200市町村の99.9%,海外59カ国を概ね私費で訪問し,現場での実見に,人口などの各種統計数値,郷土史を照合して地域特性を多面的に把握。公職多数。2011年より公益財団法人ラボ国際交流センター理事。
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