子どもが「育つ」ってどんなこと?
(その1)

田島 信元

白百合女子大学名誉教授,発達心理学,
ラボ言語教育総合研究所代表

はじめに

  •  0,1,2,3歳の子どもたちが注目されています。この年代の特徴は,子ども自身がまわりの人に協力してもらいながら,ひとりで発達できるようになる,ということです。

     この時期,子どもが自分で「育つ」ために,まわりの人びととのかかわりがとても大切なようです。

     これから0,1,2,3歳までの子どもの発達のようすを見ていきたいと思います。そして,まわりのおとなの役割についても,紹介していきたいと思います。


大切な3つの発達の要素

 0,1,2,3歳の発達の特性には,次の3つの大切な要素があります。

(1) もってうまれた学習能力
(2) 人間関係づくりの天才
(3) ことばの獲得

では,それぞれ順にくわしくお話しましょう。

もって生まれた学習能力

「PDSサイクルシステム」とは?

 幼児教育で大切なことは,「教えるのではなく,子どもが自分で学習するのを手助けすること」です。なぜなら子どもたちは,生まれながらに自分で学習する能力をもっているからです。子どもの学習能力は「PDSサイクルシステム」というかたちで説明されます。これはスイスの発達心理学ジャン・ピアジェの考え方にそったもので,「子どもは本来,受身で学習することはない」という考え方をあらわしたものです。次のような子どもの行動をさしています。

 たとえば,アメ玉をなめて甘かったという体験のある子が,アメ玉に似た(実際はアメ玉ではない)モノを「これはきっと甘いモノだ」と考えて(Plan),「なめてみる」(Do)と「これは甘くない」とわかる(See)。こうした予測しなかったことが起こると,子どもはすぐにはじめのプランを修正し,次からはアメ玉に似ているけれどよく見ると少し違うモノはなめなくなります。このように「PDSサイクル」をまわしていくことで,常に瞬時に新しいことを学習していきます。

どんどん大きくなる「知識袋」

 じつは,子どもは生まれたときにすでに10ほどの知識が入った「知識袋」とでもいうべきものをもっています。たとえば「くちびるに何かふれると吸う」というような,現象的には「反射」と呼ばれるものです。

 赤ちゃんは,新しいモノに出会ったとき,その「知識袋」をもとに「これはこういうものにちがいない」とプランをたてるのです。このことは,生まれたその日の赤ちゃんを見ればよくわかります。はじめて母乳を飲むとき,「口にふれたおっぱいを吸う」ということを「やってみる」ことにより,予測もしない「甘い汁」が口に入ってくる。2回目からは,おっぱいが口にふれると甘い汁を期待して吸うようになります。同じ赤ちゃんの口にガーゼがふれると,最初は「甘い汁」を期待して「吸ってみる」,けれども「これは甘くない」。すると次からは,おっぱいとガーゼとは区別し,ガーゼが口にふれても吸わない。

 このように,すべてをそのつど一回で学習していきます。ですから,赤ちゃんの「知識袋」は最初は小さいのですが,何かを経験するごとにどんどんふくらんでいきます。

  • 「三つ子の魂百まで」の学習方法

     ここで大切なことは,3歳までの子どもは「その気にならないと絶対に学習しない」ということです。でもいったん学習してしまうと忘れない。「三つ子の魂百まで」ということばには,3歳までの子どものように学習すると効率よく学習ができ,そしてずっと残る,という意味を含んでいます。これはおとなにもあてはまることです。

     もうひとつ覚えておいていただきたい大切なポイントは,生まれながらにもつ学習能力が発揮されるためには,「子どもが興味をもてるような刺激をあたえ,子どもがそれに働きかけたときには,すぐに応答してやること」です。つまり子どものすばらしい学習能力は,人がかかわることで大いに発揮されるのです。そのために子どもたちは発達の早い段階で,人間関係づくりに一生懸命になります。

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お話を伺った方

田島 信元(たじま のぶもと)

1946年生まれ。
白百合女子大学名誉教授
ラボ国際交流センター評議員,ラボ言語教育総合研究所代表。
東京大学大学院教育学研究科修士課程終了(発達心理学専攻)。
博士(人間科学)。

 北海道大学教育学部付属乳幼児発達臨床センター(北大幼児園)にて,研究のため10年間子どもたちの保育にあたるとともに,日本及びアメリカ合衆国のさまざまな幼児教育プログラムを調査・検討し,乳幼児の発達についての研究を長年続ける。
 主な著書に,『発達心理学入門ⅠⅡ』(東京大学出版会),『育つ力と育てる力』(ラボ教育センター),『大人になったピーター・パン-言語力と社会力-』(著者,アートデイズ)ほか多数。