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特集連載
第17回
テーマ活動と「ことばと心の受け渡し」

2012/5/28

福田三津夫/ふくだみつお(埼玉大学)

 ラボ・パーティでは,子どもたちが英語と日本語で世界の物語を劇にして楽しむ「テーマ活動」をたいせつなプログラムにしています。そこでは,さまざまな年齢の子どもたちが物語について話しあいます。「ぼくはこう感じたよ」「ここをこんなふうに表現しようよ」などと意見をだしあいながら,コミュニケイションの力,表現する力を育み,仲間と夢中になって表現する体験を通じて,イメージや気持ちを伴った英語の表現を身につけていきます。
 今回は,長年小学校の教師として,演劇教育の考え方を学級づくり,授業づくりに活かしてこられた福田三津夫氏に,「ことばと心の受け渡し」の重要性についてお話しいただきます。

小学校教師33年の経験で学んだ「ことばと心の受け渡し」のたいせつさ

 東京都の小学校で33年間教師をしていました。私が教師になったのは大学闘争が下火になってきた1972年のことでした。最初教師として重視したのは各教科の教育内容を系統的科学的なものにすることでした。教える中身を,当時の文部省検定の教科書だけに限定しないで,算数なら遠山啓さんが中心になって編集した『わかるさんすう』,理科なら板倉聖宣さんの仮説実験授業などに学び,自信をもって授業に臨んだのです。ところが子どもたちはあまり乗ってきません。それはそのはずです。子どもの事情などお構いなしに教師の熱意が何物にもまさると思いこんだのです。当たり前のことですが,子どもにはそれぞれの生活があり,生理やリズムがあり,それぞれの考えがあるという当然のことがようやくわかってきたのです。私にとって「教科の論理と子どもの論理の融合」への覚醒でした。「教えから学びへの転換」と言い換えてもいいかもしれません。

「教師の教え」から「子どもの学び」へ

 しかし,教育活動を「教師の教え」から「子どもの学び」へシフトさせていくということは容易なことではありませんでした。教師の私が,子どもに関われることばや身体をはたして持っているのか,ということが自身の課題になりました。子どもとの応答をたいせつにして授業を創っていこうと考えたからです。新卒から数年経ったとき,演出家の竹内敏晴さんと出会い,「語ること」を学びました。あの野口体操を考案した野口三千三さんからは「聞くということ」を学びました。

相手の存在を丸ごと受けとめ,自分の思いをしっかり手渡す

 さらに,教室でことば遊びや朗読・群読,劇的な身体表現活動を通して,具体的に「語ること」と「聞くということ」が実感できたのです。私が今日キャッチフレーズにしている「ことばと心の受け渡し」の発見です。これは平たくいえばコミュニケイションというとですが,私にとっては身体と身体の出会いという,決定的に重大で深遠な意味をもつものなのです。相手の存在を丸ごと受けとめ,自分の思いをしっかり手渡していく作業のことです。いまでは「ことばと心の受け渡し」の成立していない教育はあり得ないと思っているのです。

ラボとの出会い

福田三津夫氏によるワークショップ  私が小学校の現場で演劇教育(演劇で教える教育)を実践しているとき,フレネ教育に出会いました。フランスのセレスタン・フレネの考えに共鳴した教師が全世界にいます。
 1998年,その教師たち約170人が日本に集まってきたのです。受け入れる日本人側の教師や学生も約170人でした。その10日間の研究集会のひとつの分科会に「日本の昔話を身体表現で楽しむ劇活動による外国語習得」がありました。多数の外国人を相手に仕切っていたのがラボ・テューターのふたりでした。研究集会実行委員長の村田栄一さんがラボにお願いして講師を派遣してもらったのです。『おむすびころころ』のお話で嬉々として遊ぶ各国の教師たち,丁々発止とやり合うラボ・テューター。これはまさに私が追求してきた演劇教育の教師です。ここにも演劇教育の仲間がいたのです。

ラボのテーマ活動は「ことばと心の受け渡し」

福田三津夫氏によるワークショップ  その後,ラボとのお付き合いが始まり,中心的な活動がテーマ活動であるということを知りました。都内のラボ・パーティを見学させてもらいました。子どもと交流しながら進めるテーマ活動がじつにおもしろいのです。フィクションの世界で全身を使って子どもたちが遊んでいるのです。遊びの主人公は子どもたち自身です。人に命令されて嫌々している活動ではありません。だからいつまでも表現活動が続いていくのです。まさに「テーマ活動を遊ぶ」という感覚なのでしょう。
 こうした活動で育った子どもたちは,ことば(英語や日本語)っておもしろいと思うはずです。さらに,物語を演じるうちに「ことばと心の受け渡し」を体得できていくのです。しかもひとつの劇を異年齢集団で創りあげることは人間関係づくりに大きく寄与します。そして劇の発表をすることによって,観客という他者との出会いが用意され,子どもは新たな世界に足を踏み入れることになるのではないでしょうか。ときとして,こうした身体表現活動がその子どもの生き方を左右するような「原体験」にもなる可能性があります。
 日本中の学校や地域でテーマ活動のような身体表現活動が日常的に展開され,いたるところに子どもたちの笑顔が溢れることを願っています。

おはなしをうかがった方
福田三津夫
福田三津夫(ふくだ・みつお) 演劇教育研究者
 1949年東京生まれ。1972年より2005年まで33年間,東京都内で小学校教師を勤める。1991年から20年間,雑誌「演劇と教育」(日本演劇教育連盟編集,晩成書房発行)編集代表。同連盟副委員長。埼玉大学非常勤講師(特別活動論・生活科指導法)。白梅学園大学非常勤講師(教育実習指導)。「ことばと心の受け渡し」(「演劇と教育」2005年4月号)で第46回演劇教育賞受賞。ラボ言語教育総合研究所研究員。妻とミニコミ誌「啓」発行。脚本研究会「森の会」、劇と劇あそびの会「P&P」所属。
 著書に『男の家庭科先生』(冬樹社,妻・福田緑との共著),『ヨーロッパ2人旅22日間』(私家版,福田緑との共著),『いちねんせいードラマの教室』(晩成書房),新刊『ぎゃんぐえいじードラマの教室』(晩成書房),近刊『実践的演劇教育論』(演劇教育3部作完結)。新刊『劇あそび・学級に活かす表現活動』(平井まどか・福田三津夫共著,日本演劇教育連盟ブックレット)がある。
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