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特集連載
第11回
学びあいが育むことばの力(2)

2011/09/20

学びあいが育むことばの力

佐藤学/さとうまなぶ
2011年4月10日に開催された「子どもの未来を考えるフォーラム」(主催:財団法人ラボ国際交流センター)の記録が本になります。 タイトルは『佐藤学 内田伸子 大津由紀雄 が語ることばの学び、英語の学び』(ラボ教育センター刊)。11月1日発刊。
今回は,そのなかのパネルディスカッション「学びあいが育むことばの力」より,佐藤学先生(東京大学大学院教授,専門は教育学)のお話を抜粋してお届けします。

Q.日本人にとって英語(外国語)を学ぶ意味とはなんでしょうか。佐藤先生は先ほどの講演で、「もうひとりの自分をつくる」ためとお話されましたが、 そのあたりをもう少しお聞かせください。

佐藤
 ふたつのお話をしたいんですが。ひとつは、日本人がなぜ英語を学ぶ必要があるのかという問題です。日本の文化を考えた場合、長い間、漢文の素養が支えていたんですね。その漢文の素養が切れるのは中江兆民が最後だと思うんです。大正教育主義というのは、じつは漢文の素養が切れたところから、逆に教育主義が生まれたのですが、この教育主義というのはやはり根をはらなかったと思うんです。たとえば、ぼくの祖母は、96歳で亡くなったんですが、幕末の頃の生まれで洋学の医者の娘だったので男勝りに育てられまして、四書五経は6歳になるまでに暗記させられたそうです。そういう素養は死ぬまで消えませんでした。しかし、ぼくの父親、母親の世代になると、そういう漢学の素養はもうまったくないです。漢学の素養を失って以来の日本の文化を考えたときに、漢学に代わるものが何か必要だと思うんですね。たとえば、現代の文章の達人といわれる人として、大庭みな子さんとか、古井由吉さんとか、丸山才一さんとか、いろいろな作家をあげることができますが、これらの方々に共通しているのは、外国語に堪能な人々だということです。つまり、これからの日本語は、外国語とセットでないと力をもたないと思うんです。英語を学ぶことの第一の意義は、日本語を教養として支えるためには、何らかの外国語の学びを必要としていることです。

 今は実用としての英語にばかり重点がいっていますが、英語で仕事ができるようになるためには、大学までの学校教育だけでやろうというのはむちゃくちゃな話で、そんなことは不可能です。外国語をなめてはいけない。英語で何か仕事をしている人は、どっかで死に物狂いで学んでいるのですね。その準備さえあればいい、というのがぼくの考えです。しかしそのあつかいかたがたいせつだと思うんですね。ことばとして、教養として育ってなければいけないと思うんです。

 それからもうひとつ、「もうひとりの自分をつくる」ということについては、私事になるのですが、ぼくの父親は戦前の英文科の大学院レベルまで行った人なのです。しかし、一生英語を使いませんでした(会場笑い)。銀行に勤めたのです。しかし、一回だけ使っています。ぼくが1歳のときに病気になって、もう死ぬ間際のとき、広島県で働いていたのですが、東京まで来て米軍キャンプで英語で交渉し抗生物質を手に入れて、ぼくの命を救ってくれました。一生のうちに使ったのはその1回だけです。英文科を出たことも恥ずかしくて人にはいってなかったです。そのくせ、寝言ではいつもキーツの詩を暗唱する(会場笑い)、すごいな! といつも思っていました。72歳でなくなったのですが、それまでずっと寝言で英語の詩や文学を暗唱するのですから。だけど昼間に訊くと全然いえないんですね。そういう父親でしたが、書棚にはいつもノーマン・メイラーの小説がありました。戦時下に敵国のことばを学ぶことで精神の自由を保っていたのだということがわかりました。「もうひとりの自分」を生きていたのだと。だから、父は英語を学んで役に立たなかったなんてひとこともいわなかったですよ。「もうひとりの自分」というものをぼくもたいせつにしたいし、英語を学ぶひとつの証を、お互いにつくりあげたらいいなというふうに思います。

おはなしをうかがった方
佐藤 学
佐藤 学(さとうまなぶ)
東京大学大学院教育学研究科教授。教育学博士。
東京教育大学教育学部教育学科卒業。日本学術会議会員。ナショナル教育アカデミー会員(アメリカ)。2010年より財団法人ラボ国際交流センター理事。著書に『教師というアポリア』(世識書房)、『学び・その死と再生』(太郎次郎社)、『学校の挑戦―学びの共同体を創る』(小学館)、『教師花伝書』(小学館)など多数。
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