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特集連載
第10回
学びあいが育むことばの力(1)

2011/08/15

子どもの未来を考えるフォーラム

内田伸子/うちだのぶこ
 4月10日に開催された「子どもの未来を考えるフォーラム」(主催:財団法人ラボ国際交流センター)の記録が本になります(仮タイトル『佐藤学 内田伸子 大津由紀雄 が語ることばの学び、英語の学び』。9月初旬発刊予定)。
 今回は,そのなかのパネルディスカッション「学びあいが育むことばの力」より,内田伸子先生(お茶の水女子大学客員教授,専門は発達心理学,認知心理学,言語発達心理学)のお話を抜粋してお届けします。

Q.ラボの活動は,いわゆるおけいこごとはちょっとちがいますが,
ラボの活動について思われることをお聞かせください。

内田 ラボの教室を見せていただいて感じるのが、共同体的な学びというか、交流が非常にできているという点です。テューターの方が、やはり聴く──これも「十四の心を込めて耳をすます」ほうの「聴く」ですけれども――よく子どものことば、心の声を聴きとっておられる姿があるのですね。今日の熊井テューターのご提案もまさにそうだったかと思うのですけれども。とくに、子どものことばにとても敏感である点がすばらしいと思いました。ラボ・パーティでは、子どもたちとテューター、そして、子ども同士が、互いを尊重して、見てくれる、聴いてくれる、その関係のなかで関わりあい、いっしょに話したい仲間というのがつくられているように感じました。このような学びの環境によって、おそらく自然に──英語、日本語なんていうことではなく「ことば」というものが身体に刻まれるようにして入っていって、やがてメタ認知の働きで、ことばを対象化して捉えることができるのではないでしょうか。まさにことばというもの、母語というものを相対化して知るきっかけになるのではないかと感じました。とてもすばらしい取りくみだと思いました。

 やはり大人になってからは、佐藤先生のように英語を使って、英語で勝負しているような世界の人というのは、日々、それを磨くためのことはやらなければいけないのだろうと思います。けれども、英語を仕事で使う必要のない一般の日本人は、人とつながりあう、あるいはその文化を知る目的で、ことばを学んでいくことで十分ではないかと思います。目標とどういう状況にあるかによって、英語を学習することの意味や学習の仕方・道筋もちがってくるのだろうと思います。

(中略)

Q.内田先生は,異年齢でいっしょにする活動については,どのようにご覧になりますでしょうか。

内田  互恵学習が起こる場になっていると高く評価できます。異年齢構成で学びの場を設定することの優れた点に気づいたのは、旧ソビエトの心理学者ヴィゴツキー(先ほど佐藤先生も言及されましたが)でした。

 ヴィゴツキーは「発達の最近接領域(Zone of proximal development)」という概念を提唱しています。「発達の最近接領域」とは、子どもの発達で、「すでに完成した水準」と、いくら大人が働きかけても先に進めない「不可能な水準」の間を指しています。大人が援助やヒントを与えると解決できるようになる範囲を「発達の最近接領域」と呼んだのです。大人が子どもの「発達の最近接領域」に働きかけたときに、子どもが先に進むことができ、伸びの可能性も大きくなるだろうと推測しています。大人が、子どもの自主的活動だけを問題にしている段階では、子どもの完成した発達水準だけを相手にすることになります。しかし発達の最近接領域を視野に入れると、大人は、子どもの発達しつつある過程をも考慮して教育的働きかけをコントロールするようになるだろうと推測しています。ヴィゴツキーは「子どもが、今日、大人に助けてもらってできることは、明日は、自主的にできるようになるであろう。教育者が、個々の子どもの発達の最近接領域を考慮すれば、いま目の前の子どもの成長しつつあるダイナミックな過程をも視野に入れて教育的働きかけを調整することができるようになる」と述べています。

 しかし大人は子どもの発達の最近接領域を見積もり損なうことがあります。さきほど佐藤先生が、「あんまり低いレベルのことをやっても、それでは不登校の子どもが学校に行くようにはならない。むしろ少し挑戦できるようなものを与えてやるべきだ。挑戦しがいのある課題でないと、学ぶ気持ちは起こらないだろう」とお話しされました。このことばにあるように、子どもは挑戦しがいのあることに立ち向かっていきます。しかし、大人は個々の子どもにとって挑戦したくなるような水準の活動がどの程度なのかを推測し損なうことがあります。ところが、異年齢集団での学びの場では、いろいろな発達水準の子どもがいますから、互いに刺激しあい、学びあう関係が作られやすくなり、成長の可能性が拡大すると思われます。この点から、異年齢集団の学びの場が子どもを伸ばす可能性やポテンシャリティが大きいのです。いろいろな子どもがいるからこそ、大人が見積もり損ねたとしても、他の子どもの活動やことばがヒントになって先に進めるようになるのです。

 先ほどの熊井パーティの「国生み」でも六歳から大学生までが入っていますから、発達の個人差も大きく、仲間のだれかがいったことやした活動が、いま成長しつつある過程に刺激となり、葛藤の解決の手掛かりが与えられることになります。こうして、自然に学びあい、互恵学習が起こりやすくなるのです。幼稚園や保育所では、異年齢クラスを設けるところもでてきています。小中高までの学年区分を六・三・三制ではなく、四・四・四制にしてみるとか、ときには一括して、二ぐらいにしてしまって異年齢グループでの学習活動を設定するなど教育改革を進めている学校―たとえば奈良県の奈良学園幼小中高での教育改革―もあります。熊井先生から、幼児がいったことばを先生が中学生に伝えたら、中学生が驚いて「ええ、そんなすごいことをいってるのか、ぼくたちとおんなじだね」って反応したというエピソードをご紹介くださいました。このように異年齢集団の学びの場では、幼い子が年長児から学ぶだけではなく、年長児が、年少児から学ぶこともあると考えられます。以上から、ラボ・パーティの特徴である、異年齢集団での学びが優れているといえましょう。

おはなしをうかがった方
内田伸子
内田伸子(うちだのぶこ)
お茶の水女子大学客員教授・名誉教授、元副学長。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了、学術博士。
専門は発達心理学・認知心理学。著書『ごっこからファンタジーへ −子どもの想像世界−』(新曜社)、『子どもの文章―書くこと・考えること』(東京大学出版会)、『想像力の発達 −創造的想像のメカニズム−』(サイエンス社)、『ことばと学び―通いあい響きあうなかで』(金子書房)、『発達心理学 −ことばの獲得と教育−』(岩波書店)、『子育てに「もう遅い」はありません』(成美堂出版)など多数。
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