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物語絵本の展望を開く 松居 直
2005年07月22日(福音館こどものとも50周年プログより)
「こどものとも」が創刊以来、5年目に入った1960年の1月号は、長年にわたり早稲田大学でロシア文学の講義をされ、多くのロシア文学研究者や翻訳家を育ててこられたワルワラ・ブブノワ先生に、思い切ってロシアの物語の本格的な絵本をお願いしました。ブブノワ先生は日本の版画家たちに、大きな影響を与えられた著名な版画家です。先生はパウストフスキーの物語「あなぐまのはな」を選ばれ、訳は教え子である内田莉莎子さんがされました。ロシアの自然と風土をみごとに表現したこの絵本の芸術的なさし絵は、高く評価されたのですが、子どもたちにはややなじみにくい絵本だったようです。
一方、幼児にとって昔話の物語体験が圧倒的な魅力があることを痛感し、幼児に最適と考えた「おだんごぱん」を瀬田貞二先生の訳に、力強い表現の井上洋介さんのさし絵で絵本にしました。文章とさし絵の表現がぴたりと合って、昔話絵本のあり方に一石を投じたとおもいます。後日、作家の丸谷才一さんが『日本語のために』(新潮社)という著書で、この瀬田貞二さんの訳を絶賛されました。
この企画に勢いを得て、昔話絵本の決定版を作ろうと、瀬田さんに「三びきのこぶた」を訳していただきました。ディズニーの「三びきのこぶた」が納得できず、本物の「三びきのこぶた」を子どもたちに伝えたかったのです。さし絵もイギリスの絵本をよく研究するとともに、徹底的に豚をスケッチして山田三郎さんが会心の絵本に仕上げてくださいました。この作品は今もなお『三びきのこぶた』の絵本の傑作として読みつがれています。
ついで日本の昔話「きつねのよめいり」を松谷みよ子さんの再話、瀬川康男さんのさし絵で出版しました。後に『ふしぎなたけのこ』でブラチスラバ世界絵本原画展でグランプリを受賞された瀬川さんのデビュー作です。
これらにつづく物語絵本として、石井桃子さんの創作「いぬとにわとり」を取りあげました。幼児向けの物語は、読み語りで幼児が耳で聴いて物語の世界をしっかりと思い描き、それからそれからと物語の筋をたのしくたどれることが必須です。この作品はそのことを適確に示していて、日本に本格的な文学としての幼年童話が生まれたことを感じさせられました。
『のろまなローラー』は、乗物を主人公にした幼児向けの物語を絵本にする手法を、山本忠敬さんがしっかりと示された記念すべき作品です。この段階でようやく物語絵本「こどものとも」に展望が開けました。 |
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