よく読まれている絵本に『おおきなかぶ』があります。
ロシアの昔話を絵本にしたもので、昔話絵本の典型ともいえる作品です。
一、二歳の子どもから読んでやることができます。
この物語は考えれば考えるほど、おかしいありえない筋です。
巨大なかぶを抜こうとして、おじいさんが引っぱるのですが抜けません。そこでおばあさんが手を貸し、つぎに孫娘が力を貸すのですがだめです。犬と猫が手伝っても抜けません。とうとうねずみが手を貸すと、やっとかぶは抜けたという、よく知られた昔話です。
現実にはありえないなんともナンセンスな物語ですが、“おはなし”としてのおもしろさや、おどろきやユーモアが感じられ、笑いとともに聴く者の気持を解放してくれます。特に子どもの気持を舞いあがらせ、「うんとこしょ どっこいしょ」の掛声が、子どもによろこびと力を与えてくれます。 しかしこうした非現実的な物語に、安易にさし絵をつけて絵本にしますと、かえって物語のウソが見えてしまい、まったくつまらない話になってしまいます。眼に見えるように語られる昔話を、絵本にするときのむずかしさがそこにあります。 しかし文と絵との微妙な関係が、うまく生かされますと、絵本という時間と空間のつくりだす独特の世界に、現実性をおびたみごとな物語が浮かびあがります。 「おおきなかぶ」という昔話に、いわゆる絵本調のかわいらしい絵や、マンガ風の平板な絵や、色彩で眼を引こうとする絵をつけたのでは、物語が死んでしまいます。 子どもが絵本『おおきなかぶ』に共感し、繰り返し聴きたがるのは、内田莉莎子さんのみごとな訳文と、彫刻家・佐藤忠良先生の写実に基づいた人間や動物の姿とその動きが、この物語に生活感を与え、秘められた人間性の真実を子どもに伝え、 “ホントウだ、よかったな”という共感をもたらすからです。 絵本のさし絵には、物語に秘められた真実を描きだし、語り伝えることが求められています。 |