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「海は、あるときは人と人の障壁であるが、あるときは、人と人を結ぶ道でもある」
Evelyn Iriatni氏の著書"An Ocean between us"に紹介された日米のつながりの4つの実話の一つとして、彼女が取り上げたのは、音吉、久吉、岩吉の漂流ものがたりである。前に述べたように、彼等は、明治維新によって近代的な国家体制を整えるまえ、1834年にアメリカに上陸した小野浦港の漁民であり、初めての日本人だったのである。その後の彼等の生き方をみると、正しく歴史という潮流に乗り、あるいは不可抗力に乗る事を得ず、歴史の波間に漂流(二重の意味で)する姿をみることになる。その彼等の生き様は、我々に多くのこと、とくに国とは、人とは、何かという原初的な事を思い起こさせると同時に、どのような環境や逆境にあっても、人はその持つ潜在力を発揮する存在なのだろうと勇気ずけられる。
Iritani氏の叙述によると、マコ-・インデアンに奴隷として使役されていた3名は、岩吉の書いた手紙を入手したハドソン・ベイ貿易商会によって救い出され、ワシントン州のフォート・バンクーバーで暫く滞在したあとハワイ、ロンドンそしてイギリスの植民地マカオに連れられてそこでイギリスの宣教師のギュッスラフに出会い聖書を日本語に翻訳する作業を手伝うのである。その後、モリソン号に乗って日本に帰国を企てるが、外国船打払令で帰国できなかった。しかし、彼等は、自らのライフ・スキルを活かし幕末の歴史の激動期の波間に逞しく、生きるのである。同じく漂流民で、アメリカの捕鯨船に救助され、米国で教育を受けペリー来航時に幕府の通訳として活躍した、万次郎とは別の生き様であった。
黒船の来航によって、日本は、外国を意識し、国としての体制を整えてゆくのであるが、小波のような漂流民が、サバイバルの限りを尽くしたこと、アメリカという太平洋の対岸は、異郷であっても異郷でないという、海は、障壁ではなくどの岸辺であってもそこには、人と人が結びつく原初的世界があるというのは、なんとグローバルなことか。ここに歴史の原点がある。
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