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[リキとグレイ]
「おじいさん、お元気ですか。
リキとグレイは、いま、とっても幸せです。
ぼくの育ったひだの山へ来ています。いろいろ勉強しました。
冬にそなえて木の枝をくんで作った家に、ホウの葉っぱをいっぱい敷 きつめました。
しばらくここで暮しますので安心してください。
ぼくをつくったおじいさんへ
わたしの生まれたうちのとうさん、かあさんへ
リキとグレイより」
これでいいかなあ、とリキは手紙の下書きをグレイに見せました。
木彫りの置き物の猫だったリキは、リキを好きになった、となりの猫、グレイのおかげで、たくましいおす猫に生まれ変わりました。
二匹は、自分たちの力で広い世界で生きてみようと、お互いの住まいを出て行きました。
二匹は、「リキ」「グレイ」と呼び合って、仲良く、楽しい日々を過ごしました。リキの足は、やっと歩ける状態から、どんどん強くなり、飛んだり、走ったりも出来るようになりました。
「これから、どこへ行くの」
グレイは心細くなってたずねました。楽しいとはいっても、世界は二匹にとってはひろすぎました。
リキは、
「どこへいこうか。ぼくは川に沿って歩きたいんだ。この川の源を目ざしてどんどん行けば、山へ行けると思うんだ。」
リキは、大きな木に育って、家を建てる柱となった木の残りの部分で、木彫り上手のおじいさんが彫って作った猫だったんです。そんなリキは、自然と山にあこがれていました。
川の流れを上るように二匹は歩き続けました。
夜になって、おなかのすいた二匹は、いいにおいのしてくる店の勝手口へ、ふらふらと入ってしまいました。皿洗いをしていたおかみさんは、
「おや、かわいい子たちね。おなかがすいているんだね。 ほら、うどんの残りをあげよう。・・・ でも、ただじゃ、だめだよ。あとで店の周りをきれいに掃除しておきな。」
リキとグレイは、お礼を言ってうどんを食べたあと、うどん屋の周りをなめるようにきれいに掃除しました。
一日を自由に遊んで家に帰れば、食べ物が出てきて、それをだまって食べていたグレイは、食べ物を手に入れる大変さを知りました。でもリキと一緒にやっと食べられた食事の味はおいしくって、うれしくって、感動してしまいました。
川の流れのきれいなところへ来ました。水辺に下りると、
「あっ、魚がいる!でも、水の中だわ。」
グレイは水の中の魚を捕ることは出来ません。岸辺に人がいます。向こう岸にも、川の中ほどにも。みんな、長い棒をもっています。
「この網の中に魚がたっくさんいるよ。」
二匹が近寄ると、
「こらっ! とるなよ。」
男の人が来ました。
「おじさん、この魚、いただけませんか。」
「かわいいやつらだな。 やってもいいぞ。 でも、ただじゃだめだ。 えさでもとってこい。」
二匹は、えさをつけて魚を釣ることを知りました。 一生懸命あたりを探し回り、ミミズやガの幼虫などを見つけて、おじさんにもっていき、魚を少しもらいました。
川幅はずいぶん狭くなってきました。田んぼや畑がひろがっています。 とうもろこしやトマトがおいしそうです。
朝早いのにおばさんが畑で働いています。
「おばさん、このとうもろこしをいただけませんか。」
「かわいい子だね。あげてもいいよ。 でも、ただではだめだね。何か、仕事が出来るのかね。」
二匹は、一日中、一生懸命畑の草取りをしました。
夕方、おばさんは、野菜をどっさりくれました。
二匹は毎日毎日、はじめて見るところで、はじめて会う人たちと、初めての体験をして、一日一日を一生懸命生きて、楽しんでいました。
リキはやっと自分が落ち着けるところに来たように思いました。
「ぼくは、この空気がすきだ。せせらぎの音も心落ち着くなあ。 グレイ、ありがとう。」
「わたしも、ここは気持のいいところだと思う。でも、いろいろびっくりすることばかり。明日からどうやって暮していこうか。リキと一緒だからいいけど。」
二匹は、この土地の人々と仲よくなり、役に立つ仕事をして暮していこうと思いました。
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「イギリス」
「街角」 8号 1990
ストラッドホード・アポン・エイボン。
シェイクスピアの生地。
チュウダー様式の建物。物語の中で、チョークを掘った後の洞窟があるのを知ったが、なるほど、このような建物が多く建てられたのだ。
これは、第一回目の個展の案内状に使った絵だ。
「白い舟のある水辺」 4号 1990
ストラッドホード・アポン・エイボン。 エイボン川を船で下る。まさに「ガンピーさんのふなあそび」(ジョン・バーニンガムの物語)だ。そしてガンピーさんが、ひょっこり出てきそうな景色がそこにあった。
「ウエストミンスター・ピア・・「A」「B」 4号 1992
ロンドン。有名なウエストミンスター寺院、国会議事堂、ビッグベンの一角だ。
橋のたもとを下り、テムズ川のクルージングをした。有名なロンドンブリッジの下、歌の歴史などわからぬ、いまは、なんの変哲もない橋だ。
この絵を描いた後、2005年にロンドンを訪れたとき、対岸に大きな観覧車ができていて、ウエストミンスター寺院などを見下ろすことになっていて、がっかりした。
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ラジオとテレビが並んでいたら、普通のときならテレビのスイッチを入れるだろう。テレビが普通になった今、私の生活の中ではほとんどラジオは聞かなかった。
今年の夏は暑く、荘川の高原避暑地で過ごすのが、快適で少しでも長く滞在したいと思った。山小屋には小さいテレビがあったが、アナログ放送が終わった今、これは役立たない。というわけで、ニュースくらいは聞きたいとラジオをかけることにした。
これがなんと、ラジオ放送を新鮮な気持ちで聴き、意外と楽しみ、脳も体もよく動くというリラックスタイムを生むことになった。
考えてみれば、農家の作業場とか、はた仕事に来た人が車の中からラジオを流して聴いているのは、身近に知っていた。ラジオに親しんでいる人は、結構いるものだと思った。
「ひるのいこい」とか「ラジオ深夜便」など何十年前とテーマ音楽も同じで、懐かしいなあ、と思った。「音楽の泉」、「短編小説の朗読」など、耳から聴く(視覚からは入らない)ということは、自然と自分でイメージを膨らませている。
「ラジオビタミン」とか「つながるラジオ」、とかリスナーからの便りが楽しい。「なぞ賭け問答」和歌や川柳の投書、季節のたよりなど、ラジオを楽しんでいる人は多いんだと思わせた。
私を特に楽しませたのは、地球・・世界各国にいる小学生からの便り、作文が興味深かった。
若者のディスカッションなど、チャットなども利用して今風に参加者も多い。ラジオもなかなかやっているなあ、と思わせる。
そして何の番組をやっていても、毎時ニュースが入る。この情報時代にこれだけはないと困る。
とにかく、わりに知的に脳が活性化され、ぼんやりして聞いているときがない。料理をしながら、絵を描きながら、人形を作りながら、楽しんでいられるのがいい。ラジオを見直し、楽しく充実した日々だった。
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[イギリス・カンタベリーの町]
「運河沿いの家」 8号 1990
運河沿いに立つチューダー様式の家。この家は喫茶店になっていた。日常水路を利用する白い船が見える。
「水路のある風景」 10号 1991
水に美しい庭がうつり、空が水底に澄んでうつる。 ここの人たちは,日常、当たり前にこの水絵をみていて、無意識でいるのだろう。
「街並み」 6号 1991
この道の先に、カンタベリー大聖堂がある。最初の絵の運河がこの橋の下にある。人が立ち止まってみている。
「大聖堂入り口」 8号 1991
カンタベリーは、宗教の町。巡礼が滞在する落ち着きのある町だ。この門の奥、大聖堂。厳かにミサの音を響かせていた。
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北海道・小樽
「小樽運河」 20号 1992
ここはよく見る構図。 古い画家の小樽運河の絵には船も描かれている。昔はこのあたりまで船が入ってきていた。今は当時の倉庫なども改造され、ビヤホールなど、楽しむことが出来る。
「船だまり」 30号 1995
小樽の町を歩いていて、偶然に見つけた船のある風景。
「街角」 6号 1994
小樽の町を、春近し、と感じながら歩いていて、描いた街角。
「憩い」 4号 1995
小樽の町。北一ガラスを出たところに憩いの場所。街灯のガラスの色に北一ガラス店内で見た色の美しさが重なった。
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愛知県、碧南の漁港。20号 1991
漁港は描くテーマとして魅力がある。用事で出かけた先でも、近くに船の見られるところがあれば、訪ねていく。
赤い灯台と白い灯台。その間を通って、漁を終えた船が帰ってきて、船を定位置につける。漁港は元気だ。
千葉県、銚子の漁港。30号 1995
捕れたての魚を売る通りで魚を買い、路地を見つけて海のほうへ出ると、船だまりがあった。廃船だ。
「ごくろうさん」と感じながら眺める。
北の漁港。30号 1995
北海道、小樽から積丹へ、車で行く途中、立ち寄ったところ。
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5月に五回目の個展をした。4年ごとに30点を展示してきたので、150点余りということになる。油絵を描き始めた20数年前を思い起こし、初期の作品から自分の画集として振り返ってみることにした。これからは、水彩もくわえて、画材も考えていこうと思う。
つぼ(3号)
油絵を始めた最初の作品。
被写物をみてこの色を塗れば自分の
感じている色になるのか、手探り
状態で描く。
絵としてのバックの描き方を学ぶ。
尾道
尾道へ行く機会があった。
駅に絵描きの好むスポットのまっぷがあった。
それを見て、その場所へ行って、スケッチする。
生物
生物と題して描くのも難しい。
どのような配置にしたらいいのか。
描く構図を考えて並べる。
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灰色ねこと木彫りねこ
うちのおじいさんは、木彫りを楽しんでいます。ばらやぶどうを彫った時計や椅子など、家の中は作品でいっぱいです。動物も彫ります。犬やうさぎや猫などです。木っ端で彫ったねこは、かなりお気に入りのようです。
おじいさんは、猫を磨きながら庭に出てきました。
「かわいいなあ。いまにも動き出しそうだ。ここで日向ぼっこでもするか。」
といって、猫をふみ石の上に置きました。うちの庭の置物としても似合う。マーガレットやフリージアなどに囲まれた猫の顔もいいものだろうと思いました。
隣の夫婦は、猫好きで、飼っている猫が子猫を七匹も生んだといって喜んでいます。猫たちは元気に育って、おじいさんの庭へ遊びに来るようになりました。庭は広いので、とてもよい遊び場です。追っかけたり、日向ぼっこをしたり、かわいいこと。
そんなかわいい姿を見ると、猫好きの人は欲しがって、一匹、二匹と、新しい飼い主にもらわれていきました。
毛並みのいいのからいなくなって、とうとう最後に灰色ねこが一匹残りました。灰色ねこは、おいしい食事をもらって、かわいがられていましたが、毎日、淋しくて、つまらないのでした。にぎやかに仲間と遊んでいた頃を思い出して、おじいさんの庭をぶらぶら歩き回っていました。そして、茶色のねこを見つけました。
木彫りのねこは、やさしい目をして行儀よく両足をそろえて座っています。灰色ねこは自分より大きいねこにびっくりしましたが、やさしそうなので、ちょっと前足でつついてみました。が、動きません。背中に乗ってみましたが、怒りません。あごの下をなでたり、足をひっかいたり、灰色ねこは一日中、夢中で遊んで、木彫りねこを草の中に転がして帰りました。
次の日も、次の日も灰色ねこは木彫りねこのところへ遊びに来ました。
二匹のねこは話し合うようになっていました。
「わたし、生まれたうちと、この庭しか知らないの。仲間たちも遠くへ行ったみたいだし、わたしもいろいろ知りたいわ。もっとちがう世界も知りたいの。」
「ぼくの仲間は、家の柱やはりになっているよ。ぼくはその家には余分でいらない木のこっぱだったんだ。おじいさんに拾われて、みがかれて、こんなに立派なねこになったのさ。生まれは、飛騨の山奥。高い木に伸びて、広い高原や畑の四季を楽しみ、せせらぎの音を聞いていたよ。太くなって、役に立つようになったら家を建てる材木になって町へ来たんだ。」
灰色ねこは木彫りねこの話を聞いていると、世界が広がるような気がします。楽しくなって、気分がうきうきしてくるのです。
「わたし、あなたの話を聞くの大好き。あなたと一緒にいたいの。山や川も見たいわ。」
灰色ねこは、毎日毎日木彫りねこのしっぽを伸ばしたり、足をこすったりしています。
「ぼくの足、昨日少し動いたような気がするよ。おじいさんは本当にまじめな人だから、一生懸命ぼくを彫ってくれた。だから、ぼくはおじいさんから心と魂はもらったんだ。でも、おじいさんは、猫はお行儀よく足を揃えて坐っているのがいいと思って、足をくっつけてしまったんだ。」
「わたし、あなたを歩けるようにしてあげる。」
灰色ねこは木彫りねこの足をこすったり、爪で削ったり、歩けるような形にするのに必死でした。手には血がにじんでいました。
ある朝、木彫ねこは目を覚ますと、四本の足がピクピクします。腰が軽く感じます。ゆっくり腰を上げて立ちました。そっと、足を前に出しました。歩けます! 何という感激でしょう。
灰色ねこが来ました。
「おはよう。僕、歩けるよ。」
灰色ねこと木彫りねこは、ゆっくり、ゆっくり、庭を歩きました。マーガレットやフリージアの間を歩きました。
「この庭もいいけど・・・。おじいさん、ありがとう。僕たち仲良く広い世界に出ていくね。」
木彫りねこは家の中のおじいさんに、そっと言いました。灰色ねこは、ふみ石のコケの上に手紙を書きました。
「ふたりでせかいをみたら、かえってくるね。」
草がのびた庭が気になるおじいさんは、庭の草取りをはじめました。ふみ石のところまで来て、
「おかしいな。ここに置いたはずだが」
コケの上のへんな文字を見ました。
となりの夫婦が散歩に出てきていいました。
「うちのねこが、この頃いなくなってしまったんだよ。」
おじいさんと、夫婦は、一生懸命文字を読みました。
ふたりでせかいをみたらかえってくるね
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絵画展が盛会裏に終わって心地よい疲れと感謝のこの頃である。
まず、古民家を使うということで、事前に飾り付けのシュミレーションをしておいた。土蔵の壁は木、柱と柱の間は80センチ、20号の額がちょうどいっぱい。8,6,4、号は柱の間に一枚。サムホールは二枚入れようと。
古民家の雰囲気に合わせて、私の趣味で作りためた古布の細工物を飾ろう。普通のギャラリーと違い、靴を脱いで見るので、低い長机が使える。四季の飾り物があるので、「細工物十二ヶ月」としてならべた。
今回のテーマ、「マイセン人形から」とベトナムの風景画、人形など、20点を土蔵に、30号のヨーロッパ、オーストラリアなどの10点を、第二会場の喫茶店のフロアーに飾ることにした。
4年ごとに30点を飾って、五回目。回を重ねることは、それだけの充実を味わうことが出来る会であった。知人、友人、新聞の案内や記事を見てきてくれる人たち。それにパパやママになって子連れで来てくれる元ラボっ子たち。懐かしいテューター仲間。次から次と会場は楽しい会話が絶えなかった。
細工物は絵を見たあとの更なる癒しのときとなった。
女性は特にその前に座り込んでしまい、いろんな感想や感嘆の声が聞かれた。
私は、飾るためでもなく、売るためでもなく、ただただ布があるから何かを作り続け、みんなに差し上げて、その残りをたまたま古民家を利用して飾っただけ。その素朴さが人々を楽しませ和ませたようだ。
さらに来場者は、母屋、古民家の間取りや長い土間、五右衛門風呂やおくどなども楽しんでくださった。
私を感動させた来場者の一人は、全盲の女性だった。男性に手を引かれてきてくださり、男性が、一枚一枚細かく説明していた。「ひまわり・・・大きいひまわりを二つ描いてバックは真っ赤なの」
「帰り道・・・ベトナムの風景で、男の人二人と、女の人二人が、空っぽになったかごを担いで歩いている後姿が描いてあるの、バックの黄色がいいね。色がみんな綺麗だよ・・・」などとゆっくりと見てくれた。
その後細工物の机の前に坐って、出目金、なまず、うさぎ、せみなど手に持ってもらって、どんな布で作ったかを楽しめるよう私は話した。 楽しそうに話に相づちを打ちながら、私の顔を見てくださると、私は思わず熱いものがこみ上げてくるのだった。
多くの人に感謝する10日間だった。
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会期:平成23年5月13日(金)~22日(日)9:30~17:00
第一会場:杉山邸
第二会場:あおい喫茶(TEL 058-387-4534)
笠松町の文化財「杉山邸」の土蔵に最近の油彩画と、古民家の雰囲気に合わせて古布の細工物も展示します。
あおい喫茶には、ヨーロッパの町など30号作品を飾ります。ゆっくりとコーヒーでものみながら、おしゃべりできたらと思います。
〈駐車はあおい喫茶に)
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