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一期一会に感謝・感謝 |
06月07日 (水) |
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五月の後半、船旅に出た。
年を重ねた身には、ホテルが動いてくれるような船旅は、大変にありがたい。
船の中は大勢のスタッフが(外国人が多く)働いていて、それぞれの部署におもてなしの心があふれていた。もちろん彼らは仕事であるから訓練され、それぞれのマニュアルをこなしているのであるが、みんな明るくスマートでほほえましく思える毎日であった。
朝はバイキング形式の洋食コーナーは楽しい。チリンチリンと鈴を鳴らしてバスケットに焼き立てパンをいれて、にこにこと現れるお兄さん。アツアツのパンのおいしいこと!
和食の階は毎朝かわったメニューを、お膳で運んでくる。そのあと、納豆、温泉卵、のりをのせたお盆をもって「ナット、オンセタマゴ、イカガデスカ」とやってくる。
これは、いちばんやさしい新米さんの仕事かな、と思うくらい、ほほえましい。多分、食べたこともないけったいなもの。でもいつかは、口にして味わってくれるだろうか。
夕食は彼らにとって大変だ。自分の担当のテーブルの飲み物、メニューのチョイスなど、正しく聞き取っていくのは、緊張がいるだろう。
料理を配るときは、かならずにこやかに「**・**でございます」とお品書きのとおりの料理名を言ってテーブルに置く。
それが、和食となると、彼らには一段と難しくなると思う。
「鮪、蝦蛄のお造り」「鱸の蓼焼き」「鱧の落とし」などと、こちらの献立表には並ぶ。
こちらにとっては漢字の読みのテストのようだが。
気が付くと、部屋の入り口に立ち止まり、そこにある張り紙を一生懸命見てから、こちらに料理を運んでくる。
そりゃぁそうであろうと、うなずける。覚えようとも簡単に覚えられるものではない。
多分ローマ字を読んで、忘れないうちにテーブルに置いてほっとするのであろう。
ある日の夕食。
料理の下に笹の葉が敷いてあった。何か葉っぱが破れているのかと思いしが、さにあらず。
葉をもって透かして見ると細かい細工がしてある。喜んで葉を手に隣の人にも知らせていると、気が付いたウエイターがやってきた。
にこにこと「オモチカエリ、デスカ。オソウジ、シテキマショウ」と言って葉をもっていって、洗ってナプキンに載せ、ラップをして持ってきてくれた。
なるほど、きれいにするのは「おそうじ」と彼の知っている言語をフルにサービスしてくれているのだ。
食事の席は自由。適当に近くの方とその場の雰囲気に合わせて言葉を交わす。
夫婦が一番多く、親子、友達とみているが、ある日の左隣の二人に「どちらからですか」と、声をかけると、一人は名古屋、一人は三重、お互いに一人旅をしていて、同い年で、趣味も同じ、気が合ってずーと一緒に旅をしているという。
同じ日、右隣の二人は何となく気になる男女だが、沢山言葉を交わすことはできなかった。
ところが!・・・・次のディナータイム。
また偶然、その気になる二人と近くの席になった。
バンドが回ってきて我々の席の近くで演奏した。
それが終わると、気になっていた隣の女性が、バンドの一人に話しかけた。
バンドメンバーは日本語が通じず、慌てているのだが、・・・・・そんなことはおかまいなしに女性は話し続ける。日本語のわかるスタッフが駆け付ける。
私たちの少し離れた前方に赤ちゃんを連れた夫婦がいた。
女性の要求は「あの小さい子にわかる音楽を演奏してあげてください」ということだった。
バンドは小さい子の前へ行って、「きらきら星」を演奏した。
そのあたりには、なんとなく暖かい空気が流れた。
私は、決しておしゃべりではないその女性が、バンドにリクエストしたその勇気に感心して、女性に話しかけた。「幼児関係のお仕事でも?」
すると
「私はね、この子に障害があって、小さい時に父親を亡くし、私は働いている間、この子は人に預けっぱなしでね。退職してからは、こうして旅行しているのです。
小さい子がお利口にしているのでかわいくて・・・・」
ああ、そうだったのか。親子だったのか。じっと見つめる目に私は何かの意味を感じていたのだが。
これだけのことばを聞いて、このお母さんの今までの人生に一人感動し涙がでた。
赤ちゃんを抱っこした夫婦も、こちらに手を振って感謝の気持ちを送ってくれた。
料理も満足、気持ちも、からだじゅうが喜んだ夜だった。
最後のハイライト。
天候は出航日と最後のクルージングが晴れ。あとは曇りだった。
船旅は日の出、日の入りが楽しみだったのだが、日の出の美しさは今回は見られなかった。
最後の夕食。
日の入りの見られる右舷側に席をとって、今日は夕日がきれいだろうと、期待しながら食事をしていた。
太陽が低くなり赤くなったと思ったその時、みんなの歓声が起こる。
富士山が現れた! 「富士の裾野に夕日が沈む、」という絵が見られたのだ。
なんと美しいこと! この光景を表す言葉、術を知らない。
真っ赤な夕日が富士の裾野にすっかり沈むと、拍手が起こった。みんながこの瞬間を興奮して見つめていた。
夕日が沈むと明るさの残る空に富士のシルエット。そしてやがてその前に島が一つ浮かぶ。伊豆大島だ。相模湾の沖を航海しながら広げられた大パノラマだった。
食事が終わっても刻刻変わる空、海の色、富士と島のシルエット、に時間を忘れ、窓辺に座り続けた。
最後、パノラマの終わりを告げるように低い空に新月が現れた。
すべてがそろえられた不思議な美しさの宵だった。
旅程のすべてに感謝。一期一会に感謝、満足、満足。 明日からまた元気に!
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