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ちゃこの童話(11) |
09月10日 (月) |
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ふしぎな結婚式
おばあさんが、たんすから振袖をだしてきました。
「私が着て、娘が着て、娘の友達が着て、こんどは孫娘が着るかな。いやいや、もう古い。柄のセンスも変わっている。思い切って何かに作り変えて、役に立てたいね。」
ひとり言を言いながら、柄を眺め考えています。
今までにもいろいろ作ってきました。着ることのなくなった羽織、着物、帯などのほとんどが絹や麻の天然素材で、肌にはとても気持ちがいいのです。おばあさんはそれらの古い布で作った服が大好きで、友達にも自慢して見せるのでした。でもこの振袖は服にするには柄も色も難しい。
おばあさんは思い切って振袖にはさみを入れました。
かわいい花柄のところ、綺麗なぼかし色のところ、など考えながらきり、巾着袋をいくつも作りました。ところが、はたとはさみが止まりました。
立派に羽を広げた鶴の柄、刺繍も手が込んでいます。この一羽の鶴を傷つけることは出来ません。おばあさんは考え込みました。
少し大きいけれど、一羽の鶴をていねいに切り取って、鶴の大きさに合わせた巾着型の袋を作りました。
かわいい袋は、友達がよろこんでもらっていきましたが、大きい袋は、「こんなのどうするのよ」「鶴の柄なんかよくないわ」と、笑うので、そのまま家においておくより仕方ありません。
ある夜、おばあさんは夢を見ました。結婚式の夢です。誰の結婚式かはわかりませんが、ただ花嫁さんの着物の柄に大きな鶴があることだけは、はっきりわかりました。
朝、おばあさんは鶴の袋が大きく膨らんでいるのに気がつきました。袋の中にはケーキとかわいい食器がはいっていました。
二、三日後、また結婚式の夢を見たのです。花嫁のウエディングドレスの周りには鶴の柄が見えました。朝起きると、巾着袋が丸く膨らんでいます。外国製の置時計やチョコレートがでてきました。
その後も度々、おばあさんは結婚式の夢を見ました。花嫁の着物には必ず鶴の柄があり、次の朝には巾着袋の中になにかがはいっているのです。おいしいお菓子や高価な装飾品、外国の珍しい品もありました。
不思議なことの起きる袋だこと。おばあさんは、袋を持ち上げて眺めました。鶴の羽が力強く、袋がおなかのように温かく感じました。
「おや、鶴の目が動いたかな。」
と、思いましたが、そんなはずありませんね、ししゅうの目ですもの、とおばさんは思い返すのでした。
ある日、おばあさん宛に結婚式の招待状がとどきました。送り主の名前はおばあさんには覚えがありません。巾着袋を見ると大きく膨らみ、まるで心臓の鼓動が聞こえるように袋は温かくふかふかしています。
何が起きるのか、ただ事ではない袋の様子におばあさんはびっくりし、もう袋ではなく鶴を必死に抱きしめました。
結婚式の当日、おばあさんは晴れ着に着替え、お祝いを包み、普通に出かけようとしました。すると急に空が何かに覆われたように暗くなり、庭に黒い塊が落ちてきました。大きな鶴が翼を広げ、背中におばあさんを乗せるというのです。
鶴はおばあさんを乗せると、大空に舞い上がりました。ずいぶん飛んで、おばあさんが降ろされたところは、鶴が幾羽もいる湿原の側の結婚式場でした。
白髪の男性がおばあさんの側にやって来ていいました。
「私は長年染物に携わり、反物をつくってまいりました。着物を大切にしてくださって、ありがとうございます。」
この言葉をうれしく聴いたおばあさんは鶴の袋をにぎりしめて目を覚ましました。ふりそでは袋になってよく働いてくれたなと、鶴を眺めていました。
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