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ちゃこの童話(7) |
02月09日 (水) |
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人形の新しい門出
ゆうべ女の子は押入れの奥からにぎやかな音を聞きました。朝起きて、おばあちゃんに話しましたが、気のない返事でした。
でもおばあちゃんは押入れの上の天袋を調べて、びっくりしました。
ダンボールの箱がふくらんで、中の人形が転がり出ていたのです。この人形たちは、おばあちゃんが娘のために手作りした50年前のもので、処分できずにいたものです。
女の子は箱から出てくる人形を一体一体感心して眺めていました。自分の雛人形に比べると、小さくて立派とはいえないけれど、なぜか「いいなあ」「かわいいね」と思って眺めていました。
女の子は
「これ、おばあちゃんがお母さんのために作ったお雛様」と聞きました。
「そうだよ。あんたに作ってあげたお雛様はね、木目込み人形と言って、材料を買って作ったの。でもこの人形たちは、おばあちゃんが、家にある古い布で工夫して作ったんだよ。お金が出来たら、いい人形を買ってやろうと思っていたんだけれどね、お母さんが[世界で一つの私のお雛様]と言ってくれたので、ずーっと、この人形を飾ってきたんだよ」
「私もこの人形大好き。頭や顔に触っても平気だし、髪の毛は黒い糸だもの。手で綺麗にしてあげられる。手も布で作ってある。お内裏様に三人官女、五人ばやしもすごく考えてある。鼓は何で作ってあるの」
「それはね、当ててごらん。と言っても解らないだろうね。ミシンの下糸を巻くボビンというものだよ」
「面白い。台はかまぼこの板なんだ。よく考えてある。15人もよく作ったね。」
女の子は飽きずに眺めていました。
「ねえ、おばあちゃん。お雛様飾ろうよ。私のお雛様も、このお雛様も、おばあちゃんが作ったほかの人形もみんな。」
それから二人は大忙し。
人形を二階に運び、飾り付けを始めました。50年前の人形は、袖のほつれ、首の緩みなどいろいろ直さねばなりません。机や箱など工夫して仕組んだ飾り台に、雛人形と童や能や歌舞伎の人形も加えてにぎやかな人形展会場が出来ました。
女の子は今までにない華やかなお雛飾りにうれしくなって、友達や近所の人たちに見に来てくださいと知らせて回りました。
毎日見に来てくれる人がいて、かまぼこの板にのったお雛様を感心して褒めていきました。その人たちの中に町の資料館に勤める女性がいました。
2、3日して、資料館の館長さんがやってきました。
「このお雛様を資料館に寄贈していただけないでしょうか。物を大切にして工夫して作られたお雛様を是非大切に飾らせていただきたいと思います。」
といいました。
おばあちゃんは、古い人形が、そんなお役に立てるならと、喜んで申し出を受け入れました。女の子も資料館に行けばいつでも見られると、喜びました。
その夜、おばあちゃんは、二階で笛や太鼓の音がするのに気がつき、そっと上がっていきました。五人ばやしの奏でる笛、太鼓に合わせて、人形たちが楽しそうにおどっています。しばらく見ていましたが、その日は静かに床につきました。
次の日、人形たちは何の変わりもなくすましているので、おばあちゃんは夢だったのかとも思いましたが、音は毎晩続くのでした。
明日は資料館へ移る日です。夜が更けると、二階がにぎやかです。おばあちゃんが上って行くと、華やかに全部の人形がおどりだし、古い雛人形の送別会をやっているのです。あまり美しいので、おばあちゃんは女の子も起こしてやりました。ご馳走もあり、お白酒もあり二人は別世界に迷い込んだように、しばらく呆然と眺めていました。
お内裏様が二人の前に来ていいました。
「長い間、大切に飾っていただいてありがとうございました。私たちは心をこめて作られた世界で一つの人形たちです。これからも、大勢の方々にみていただいて、物を大切に、また、賢く工夫することで豊かになることを示していきたいと思います。」
他の人形たちも
「大先輩を送り出し、後は私たち人形がみなさまご家族をお守りいたします。」
と約束しました。
次の日、資料館の人が来て、一体ずつ丁寧に紙に包み、箱に収めてもっていきました。
人形の新しい門出をおばあちゃんと女の子は喜んで見送りました。
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