|
|
|
|
|
[一覧] << 前の日記 |
次の日記 >>
|
「幸福な王子」とオスカーワイルドについて・・がのさんの物語寸系から。 |
06月11日 (日) |
|
2年前テューター研修で「幸福な王子」を取り上げた際、がのさんからいろいろと参考意見を頂きました。
MY Pの大学生のお嬢さん方参考にしてくださいね!!
オスカー・ワイルドの童話は9編ある。いずれも自分のふたりの子どものために書いたとされるが、『幸福な王子』のほかの『ザクロの家』にしても、『ナイチンゲールとバラ』や『星の子』『若い王子』などにしても、他者への愛のために死んでいく美しい魂をえがいている点で一貫している。『幸福の王子』の最後の場面で、ふたつの魂――王子の割れた心臓とツバメの小さな死骸は、天使が大事に天国へ運んでいった。ほんとうの「幸福」とは、ひとのためにおこなう愛の行為のなかにある、そういたキリスト教的な主題をあらわした作品。
天性の語り手といわれるこの作者は、寓話的な味わいと唯美的な味わいを融合して、こうした新しい物語のかたちを生み出した。
◆幸福な王子
〔To:Hiromi~さん 2004.9.15〕
「幸福な王子」の〝愛〟をめぐる探索には、小夜ちゃんという5歳ながら
たいへんオマセな女の子とお父さんの対話に一端をご紹介したように、興味の
つきないものがあります。どこまでいっても届かないような深み、行けば行く
ほど遠ざかる暗い森が横たわっています。
オスカー・ワイルドはアイルランドの首都ダブリンに、家庭的にはたいへん恵
まれて生まれています。若いころは詩を書いていた社交家のお母さんジェイン
の強い意向から、オスカーは小さいころは女の子として過保護に育てられてい
ます。その後、プロテスタント系の名門校へすすみ、そこでかなりきびしいキ
リスト教教育を受けたようですね。〝愛〟の思想、献身の思想はそうした環境
のなかで教えられ身につけていったようです。
王子、そしてツバメの気高い魂は、しかし、現実社会ではゴミクズのようにし
か扱われることがなかった。辛うじて天使が王子のハートとツバメの死骸を天
国に運んでいったというわけ。このへんがこの作家の死にかたと妙に符合して
いることに気がつきます。すなわち、晩年、唯美主義作品の結晶とされる悲劇
「サロメ」の圧倒的な成功にもかかわらず、同性愛問題をめぐる裁判で有罪と
なり投獄され、刑に服したのちは、自分の生まれた国に受け容れられることな
く、失意の生活ののち、パリで死んでいますね。才能ゆたかで華々しい作家生
活を刻みながら、ついに郷里のダブリンには迎えられることがなかった。
永遠の眠りについているのは、フランス・パリのペール・ラシェーズ墓地、パ
リ最大の墓地ですね。背に羽のついた少年を刻んだ記念碑の下にOSCAR WILD
の文字が見え、前にはいつも絶えることのない花が供されています。気をつけ
てもっと目を近づけてみると、なんとまあ、たくさんのキスマーク! 生まれ
故郷では疎外されましたが、世界じゅうで彼の〝愛〟は尊ばれているというこ
とでしょうね。これもちょっと涙を誘われます。
〔To:Hiromi~さん 2004.9.17〕
「幸福な王子」を素材に中学生を前に〝愛〟と〝恋〟を語って3回に及びまし
た。3年近く前のことですが。同じオスカー・ワイルドの「ナイチンゲールと
ばら」「若い王」の場合にもふれ、さらには「サロメ」や、古代ギリシアの抒
情詩人サッフォーにもおよび、ナルシズムについても話した記憶があります。
ただ、これらもわたしの個的な読み方と「感動」によるものですから、みなさ
んはみなさんの「感動」をつき合わせながら、本来のテーマ活動をなさったら
いいのではないでしょうか。そして何よりも、「人」と呼ばれることなく「消
費者」と呼ばれて走りまわらされるこの時代に、ある力と欲望と流行に鼻づら
を牽きまわされることなく、自分たちの感動という原点に立ち帰ろうという姿
勢は尊ばれていいのではないでしょうか。ムダばなしは控えつつ、多いに語り
あってください。とりわけ、オスカー・ワイルドの〝愛〟の問題は、やさしい
好意が裏切られ、献身的な愛情が踏みにじられていく、実人生のリアルな苦さ
残酷さ、あるいは、どうしても相手に届かない愛、崇高な心による自己犠牲の
愛、ナルシズムなども含め、語り尽くせぬほど深いですよ。 先に挙げた作品
や「王女の誕生日」「漁師とその魂」も合わせてこの機会に読んでいただきた
いです。
|
|
|
<< 前の日記 |
次の日記 >>
|
|
|
|