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わたしのすきなものがたり 『耳なし芳一』 テューター通信2007年7月掲載 |
07月20日 (金) |
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先日大きい子のクラスで取り組んでいた『耳なし芳一』についてテューター通信に記事を書いたのでそれを載せておきます。
『耳なし芳一』
この話を初めて聞いたのは、つい2ヶ月ほど前。高校受験でもうすぐ休会に入る南帆ちゃんが、「『耳なし芳一』をやりたい!」と言った。おどろおどろしいところがいいと言う。早速ipodに入れて私も聞き始めると、すっかりこの話に魅せられてしまった。臆病なので寝る前にこの話を聞くほどの勇気はさすがにない。それ程、怖~いお話である。夏の宵、ろうそくを灯してパーティで聞くのにピッタリだ。
語りがいい。語りの力でどんどん話に引き込まれていく。まるで琵琶法師が『耳なし芳一』という話を語っているような錯覚に陥ってしまうほどだ。「芳一」と呼ぶ侍(亡霊)の声、「はい」という芳一のおびえた声、「開門」という侍の声がいい。人を圧するほどの迫力で心に響く。パーティの子供達が真っ先に「侍をやりたい!」と言うのもわかる。一体誰が日本語吹き込みをしているのだろうと見ると、能楽師の観世栄夫氏。どおりで言葉に力があるわけだ。素晴らしい作品を作り上げて下さったことに感謝しつつ、ご冥福をお祈り申し上げたい。
音楽がいい。琵琶の音色がなんとも、もの悲しくていい。さらに鐘の音、笛の音などの音楽が効果的に使われ、語りを助けて、私たちの脳裏に情景が鮮やかに浮かぶ。絵本の絵もいい。色合いの淡さが、あの世(亡霊)の冷たさ、さらにこの世のはかなさを感じさせる。語り、音楽、絵が私たちの五感に訴えかけ、美しい絵巻物のように『耳なし芳一』の世界を描き出させる。制作者一人一人が丹念に格調高く作り上げた屈指のCDだと感じる。
私の好きな場面は、冒頭の壇ノ浦の浜辺や波間に浮かぶ鬼火のくだり、そして3日目の夜、真っ暗な闇の中で芳一が安徳天皇の墓前で雨にうたれながら琵琶を弾いている、そのまわりにたくさんの人魂がろうそくのように燃えている場面である。これらの状況が極めて写実的に描かれているため、絵画のように見えてくるその世界は妖しく美しい。その世界が美しいのでなお一層切なく、平家の亡霊たちの成仏できないでいる姿に、戦いで敗れた平家の無念、栄えし者の滅び行く「あはれ」を感じ、胸が痛むのである。平家物語の冒頭「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす」にあるようなこの世の無常、もののあはれ、日本人の心情にハーンは共感し、この『耳なし芳一』を通してそれを描き出したかったのではないかと私は思う。
子供達に一番印象に残った場面はどこか聞くと、芳一が侍の亡霊に般若心経の書いていなかった両耳を引きちぎられる場面だと言う。冥界からの誘いにのった芳一がどうなるかと、心配と怖い物見たさで興味をひきつけられてきたクライマックスがまさにこの場面だ。この結末は実に衝撃的である。困ったことに、あまりに衝撃的すぎて子供達はこの話に取り組むのは嫌だと言う。もう少し成長すれば怖さの裏側にある深い味わいに気がつき、挑戦してみたいと思う時も来るだろう。子供達の成長を見守りながら、南帆ちゃんに『耳なし芳一』と出会わせてもらったように、未知のラボCDとの出会いを求め心浮き浮きさせて、日々ラボライブラリーを楽しんでいる。
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